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米AGEIA Technologies, Inc.(AGEIA社)は,米国サンフランシスコで開かれたゲーム開発者の会議「Game Developers Conference」(GDC)で,ゲーム関連で用いる物理計算の専用LSI「PhysX」を発表した。同社はPhysXで「Physics Processing Unit」(PPU)と呼ぶ新しいLSIの製品ジャンルを開拓したいという。ただし今回のGDCではボードの展示をしただけで詳細な仕様は明らかにせず,演算の実演も行わなかった。
PhysXは,ゲーム画面に登場するオブジェクトが,どのように変形・運動するかといったことを物理公式などを用いて演算するLSIである。例えば板壁にボールを投げたとき,ボールの軌跡はどのようになるとか,板壁にボールが当たったときの弾み方や板壁の揺れ方などを物理的に計算する。これまではリアルタイムに計算するのが難しかったので,あらかじめプログラミングしておいた通りの軌跡や動きをさせることしかできなかった。
同社はPPUが,いずれ標準でゲーム機などに組み込まれていくと考えている。グラフィックスの描画処理も,以前はマイクロプロセサで行っていたが,現在は専用のグラフィックスLSI(GPU)に移った。これと同じ流れで,物理効果に必要な演算についても独立したPPUで行うようになると見ているからだ。「現在の戦闘ゲームだと,壁の近くでミサイルを発射する場合,着弾場所だけについてはなんとか物理効果を計算し,表現できている。しかし,ミサイルの発射場所で高速の噴射ガスと壁の間に起こる物理的な相互作用までは表現できない。PhysXを使えばこれが可能になる。その分,リアル感が増す」とAGEIA社のChairman兼CEOであるManju Hegde氏は言う。ゲーム業界以外にPhysXを採用する可能性がある業界についてHegde氏はコメントしなかった。
今年のクリスマスに間に合うように AGEIA社は,演算性能が異なる複数のPhysXを発売する予定である。PhysXを搭載したパソコンのメイン・ボードやPCIバス対応の拡張ボード(図1)の出荷を2005年のクリスマス商戦に間に合うように開始する。PCIバス対応の拡張ボードについては,100米ドル~400米ドルの実売価格を目指す。クリスマス商戦でPhysX対応のゲーム・ソフトウエアの出荷も始まるように,現在,同社はゲーム開発者にPhysXのサンプルを提供しているという。さらに同社は物理効果に向けたソフトウエアを販売するスイスNovodeX社を買収して, PhysX対応のSDK(software developer kit)をゲーム開発者に提供できるとする。なお,GDCの会期中にセガはNovodeX社が開発した物理シミュレーション技術「NovodeX」のライセンス契約をAGEIA社と結んだことを発表している。次世代の家庭用ゲーム機やパソコンに向けたゲーム・ソフトウエアの開発に利用するという。
Hegde氏によると,既存のマイクロプロセサで物理効果の演算を行った場合,計算できる固定オブジェクトの数は最大3000個程度という。これに対してPhysXを利用すると「最大3万2000個の固定オブジェクトの処理が可能だ」(同氏)。PhysXは130nmルールで設計した13.4mm角のLSIである。トランジスタ数は1億2500万個。AGEIA社の出資者の1社である台湾Taiwan Semiconductor Manufacturing Co., Ltd.の工場で製造する。 |