赤道にほど近い南米・ベネズエラから、フィンランド・ラハティで行われているノルディックスキーの世界選手権に参加した距離の男子選手がいる。アドリアン・ソラーノ（２２）。ワールドカップ（Ｗ杯）の出場経験がないのはもちろん、これまで雪を見たことも、雪上を滑ったこともなかったという。何度も転倒を繰り返しながら、ゴールまで滑りきった。

初戦となった２月２２日の距離男子１０キロクラシカルは、途中棄権。それでも、翌日の距離スプリント（１・６キロ）予選ではトップから遅れること１０分あまり、最下位ながらも１３分４９秒３３でゴールした。

ソラーノの戦いは、実は１カ月前から始まっていた。ＡＦＰ通信によると、大会前の練習のためにスウェーデンに向かおうとしていた１月１９日、乗り継ぎで訪れたフランス・パリの空港で強制送還に遭ったという。「ベネズエラでスキーをしていると信じてもらえなかった。母国の情勢が思わしくないから、警察は私が移住しようとしていると非難した」

結果、雪の上での練習を約１カ月逃すことに。この騒動に、ベネズエラの外相は「選手に対する侮辱をフランス政府に抗議する」とツイッターに投稿した。

ソラーノの本業は調理師。１年ほど前、「難しいことに挑戦したい」と決意し、ローラースキーで練習を積んできたという。よろけながら滑る大会の様子は、インターネットの動画投稿サイトにもアップされ、「Ｔｈｅ ｗｏｒｌｄ’ｓ ｗｏｒｓｔ ｓｋｉｅｒ」（世界で最も下手なスキーヤー）などと揶揄（やゆ）された。それでも、「非常に大きな経験になった。自分が嘲笑の対象だったのは理解しているが、誇りに思う」とソラーノ。「コースに立てば後戻りはできない。前に進むしかなかった」。完走した自負を胸に、今後も競技を続けていくつもりだという。（吉永岳央）