会場間を移動する夜行列車で、ロシア人女性と隣り合わせになった。

【特集】２０１８ワールドカップ

２０１８ワールドカップの日程・結果

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「サッカーには興味がなかったけど、ロシアが勝ち上がって、今では代表チームに誇りを感じている」。チーム強化や開催費に莫大（ばくだい）な資金を投じていることに批判的だった一部の人々も変わりつつあるという。

ホスト国の勝ち上がりは大会の雰囲気に直接影響を与える。彼女の高揚感はまさにワールドカップ（Ｗ杯）がもたらす効果であり、人々を無批判にさせてしまう怖さでもある。

ロシアの経済紙ＲＢＫによると、地方政府も含めた支出は計８８３０億ルーブル（約１兆５６００億円）。反対運動が見えにくいのは、政府批判への取り締まりが厳しいことも一因らしい。

４年前のブラジルでは開幕前も大会中も開催に反対するデモが続いた。「Ｗ杯よりも医療や教育などに税金を使うべきだ」という声が上がった。実際に公共工事が未完成のまま放置されたケースが多発した。支払われた建設費は今も闇の中だ。

「セレソン（代表チーム）が早く負けてほしい、という国民感情が存在したのは事実です」。４月にサンパウロ市内のサッカー博物館を訪ねると、ダニエラ・アルフォンシ研究員が当時を振り返ってくれた。

「ブラジルが優勝すれば、賄賂や開催費浪費などの問題がかき消されてしまう。だから、ドイツ戦の大敗の受け止め方は複雑でした」

１―７で敗れた準決勝のスタジアムで見た、ブラジル人が泣く姿はひとつの側面でしかない。

ロシアでのＷ杯は快適だ。世界中から集まってきた人々を、ごく普通の人がもてなしてくれる。街中で自然発生する交流はＷ杯ならではと実感もできる。

ただ、Ｗ杯が曲がり角に来ているのは事実だろう。急速に経済発展した南アフリカ、ブラジル、ロシア、さらにカタールへと続くが、２０２６年は北中米３カ国の共同開催になった。五輪と同様、招致段階から国民の視線は厳しい。国威発揚や経済効果だけで開催できる国は限られる。

負担の大きさと開催意義のバランスは崩れつつあるように見える。（潮智史）