二つ目の金メダルを獲得した北島康介は歓声に手をあげて応えた=18日、水泳センターメーンプールで表彰式で金メダルを手にして喜ぶ北島康介。左は2位のジュルタ(ハンガリー)、右は3位のハンセン(米)
2冠を達成した直後、北島康介(21)は報道陣の前に仁王立ちした。
「ホント、僕の人生の中で一番ハッピーだと思います。やばいっすよ」
手に持ったペットボトルの水を、おいしそうにごくごく飲み干した。
178センチの体が大きく見えた。涙をこぼし、言葉を詰まらせた100メートルとは別人の北島がいた。
圧勝だった。
余裕を持ってゴール。順位を確認すると、右手の人さし指を空に向け高く突き上げた。
表彰式では、自信に満ちた表情で一番高い位置に立ち、観客に手を振った。
「あっさり勝ってしまったように見えましたが」と問われると、「楽しくなかった?」といたずらっぽく笑った。
「でも本当に100と違って、始まる前に冷静だった。レース中にまわりをじっくり見られる余裕があった」
勝負の伏線は、2日前のレースの直後に敷かれていた。
100メートルの金メダル受賞後の会見。ハンセンが敗れたことに納得のいかない米国報道陣から「泳法違反だ」と、質問の集中砲火を浴びた。
スタート直後の水中でドルフィンキックを不正に使った、というものだった。
「言われたからには絶対負けられねえ」
北島の燃える心にガソリンが注ぎ込まれたようなものだった。
「もうこれで何も言えねえだろうって、言ってやりたいっす」
一方、ハンセンは、気落ちした様子で銅メダルを首にかけた。
「重圧の中で戦うのは大変だった」「アテネに来るために、全力を費やしてしまった」
何度も「つらい」とこぼした。
観客席には、北島らを応援する日本人100人以上が駆けつけた。無数の日の丸が打ち振られ、「コースケ」「すごいぞ」と掛け声が飛んだ。
父の富士男さんは夕暮れの中、表彰台に立つ息子を見て、「自分の子であって、自分の子でないみたいだ」と思ったという。
「天国と地獄を行ったり来たりのように感じた。とにかく、お疲れさんと声をかけてあげたい」。しんみり語る父の声はかすれていた。 (08/19)