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ノーベル賞:今年の自然科学3賞決まる

作者:未知  来源:每日新闻   更新:2005-10-12 7:08:00  点击:  切换到繁體中文

 

今年のノーベル賞の自然科学3賞が決まった。医学生理学賞の「ピロリ菌の発見」は、消化器官の炎症が細菌によって起こることを明らかにし、多くの患者に恩恵をもたらした。受賞者の一人は、自らの体を実験台にした。化学賞は、さまざまな医薬品やプラスチック製品の製造に利用されている有機合成の新手法に与えられた。物理学賞に決まった「精密分光」の技術は、超高精度の時計の開発につながる。いずれもわれわれの生活と深くかかわる研究成果だ。今年の受賞者や業績、研究分野の現状を紹介する。

 ◆医学生理学賞--バリー・マーシャル氏/ロビン・ウォーレン氏

 ◇飲んで立証「ピロリ菌」--「胃に細菌いない」常識、覆す

 ヒトの胃は食べ物を分解するため、粘膜から塩酸を含む強い酸性の胃液を分泌している。このため、胃の中に細菌はいないと長い間信じられてきた。このなかば常識を覆し、胃の中にすむ「ヘリコバクター・ピロリ」(ピロリ菌)が胃や十二指腸の潰瘍(かいよう)を引き起こすことを明らかにしたのが、今年のノーベル医学生理学賞に決まった西オーストラリア大のバリー・マーシャル教授(54)とロビン・ウォーレン名誉教授(68)だ。

 ピロリ菌はらせん形をした長さ0・003ミリの細菌で、片方の端についた4~8本の鞭毛(べんもう)で活発に動くことができ、胃の粘膜に潜り込んで長年にわたってすみ着く。強い酸性でも生きていけるのは、ウレアーゼと呼ばれる酵素を出して胃の粘膜にある尿素を分解し、アンモニアを作り出して胃酸を中和するからだ。

 豪州王立パース病院の病理医をしていたウォーレン氏は79年、胃の組織を切り取って検査をした患者の半数で、「幽門」(ピロリ)と呼ばれる胃の出口付近にらせん形(ヘリコ)の細菌が集まっているのを発見した。細菌集団の周辺の胃粘膜は常に炎症を起こしていた。

 同病院のマーシャル氏と協力し細菌の培養を試みたが、なかなかうまくいかなかった。ようやく成功したのは82年。マーシャル氏が偶然、培養器にサンプルを入れたまま、4日間の休暇を取ったのがきっかけだった。ピロリ菌は増殖速度が遅く、それまでの実験は培養期間が短すぎたのだ。

 「胃の幽門にいるらせん状の細菌」という意味でヘリコバクター・ピロリと名づけた。

 当時は胃潰瘍の原因はストレスや食生活だと考えられていた。2人の細菌原因説はなかなか受け入れられなかったため、84年にマーシャル氏は自らピロリ菌を飲み、急性胃炎になった。さらに自分の胃の炎症部分からピロリ菌を検出し、自説の正しさを実証した。

 マーシャル氏を知る畠山昌則・北海道大教授(分子腫瘍学)は「体を張った実験に、すごいなと感心した。陽気な性格で、人に会うたびにピロリ菌対策の重要性を説いて回っていた。彼のような性格だから、周囲の無理解にもかかわらずピロリ菌の正体を暴くことができたのだろう」と話す。

 ◇ヒトと共生か

 ピロリ菌の発見は、原因がはっきりしなかった内臓の炎症が慢性の感染症だったという新解釈を示す画期的なものだった。今ではピロリ菌の感染が慢性胃炎や胃潰瘍、十二指腸潰瘍だけでなく胃がんやリンパ腫など悪性腫瘍の発生につながることも報告されている。ピロリ菌は飲食物を介し感染する。日本人は先進国の中でもピロリ菌の感染者が多く、40歳以上の7割以上が保菌者とされる。衛生状態の悪かった戦後間もないころに感染が広がったらしい。

 畠山さんらは05年、ピロリ菌が胃がんや胃潰瘍を起こす仕組みを実験で解明した。畠山さんは「ピロリ菌は、胃がんに関係することがはっきり解明された唯一の細菌で、除菌すれば予防につながる」と話す。ところが、ピロリ菌を完全に除去すると、食道炎や食道がんの発生につながることも明らかになってきた。このことからピロリ菌は、胃に寄生する常在細菌として、ヒトと共生しているのではないかという説もある。【山本建】

 ◆化学賞--イブ・ショバン氏/ロバート・グラッブス氏/リチャード・シュロック氏

 ◇有機合成に新手法

 化学賞に決まったフランス石油研究所のイブ・ショバン名誉研究部長(74)、米カリフォルニア工科大のロバート・グラッブス教授(63)、米マサチューセッツ工科大(MIT)のリチャード・シュロック教授(60)は、炭素同士の二重結合を切って別の炭素と置き換える「メタセシス(炭素骨格の置き換え)」反応を実現した。炭素は他の原子や分子と結合する「手」が4本ある。中でも、炭素同士が2本の手で結びついた二重結合は非常に強固なため、切断が難しい。高熱を加える方法などがあったが、不必要な生成物がたくさんできるなど無駄が多かった。

 ショバン氏が確立したメタセシス理論では、両手をつないで踊る2組のカップル<1>が、いったん全員が輪のようになって手をつなぎ<2>、パートナーを入れ替えるようにして炭素骨格の組み換えが起こる<3>。化学反応を手助けするにはある種の金属を触媒として用いる必要があり、シュロック、グラッブス氏はそれぞれ独自に触媒を開発した。

 メタセシス反応のおかげで、生物にしか作れないとされていた複雑な構造の「抗生物質」を、比較的簡単な手法で人工的に合成できるようになった。また、大型のプラスチック成型などにも利用されている。

 新しい有機化合物を次々生み出す「有機合成化学」は日本のお家芸とも言われる。異なる型の有機化合物を作り分ける「不斉(ふせい)合成」を編み出し01年にノーベル化学賞を受賞した野依良治・理化学研究所理事長もその一人。「近年、生物学に近いような化学賞が続いていた中、久しぶりに化学らしい化学賞」と喜んだ。【中村牧生、高木昭午】

 ◆物理学賞--ロイ・グラウバー氏/ジョン・ホール氏/テオドール・ヘンシュ氏

 ◇正確な光時計へ道

 物理学賞は、量子力学を光に適用した「量子光学」を築いた米ハーバード大のロイ・グラウバー教授(80)、レーザーを使って光の周波数を精密に測定する技術を確立した米国立標準技術研究所のジョン・ホール上級研究員(71)と、独マックスプランク研究所のテオドール・ヘンシュ教授(63)に贈られる。今年は、光に波と粒子の二面性があることをアインシュタインが提唱してから100周年。これにふさわしい受賞となった。

 レーザーは、振動の状態のそろった光で、60年に開発された。グラウバー氏は63年、光を粒子(光子)としてとらえ、これに微小な現象を扱う量子力学を当てはめることで、レーザーの基本的な性質を解明した。

 ホール、ヘンシュ両氏は短いパルス状のレーザーを使い、任意の光の周波数を高精度で測ることのできる「光コム(櫛(くし))」という技術を考案した。光コムは等間隔で並んだ目盛りのようなもので、未知の光の周波数測定が容易になった。

 小林孝嘉・東京大教授(量子光学)は「周波数の国際基準は一つしかなく、それから大きく外れた周波数を測るには、30センチ定規で何キロもの距離を測るような苦労があった。彼らは意表を突いた手法で、幅広い周波数範囲で使える物差しを作った」と評価する。

 周波数の精密測定は、時間を正確に計測することにつながる。現在はセシウム原子の出すマイクロ波が91億9263万1770回振動するのにかかる時間を1秒と定義している。この原理を利用した原子時計は非常に正確で、1000万年に1秒程度しかずれない。

 マイクロ波よりも周波数の高い光を使えば、原子時計より1000倍も正確な“光時計”が作れるようになるという。GPS(全地球測位システム)の精度向上や、物理定数が本当に時間変化しないのかの検証などに利用できるという。

 光に関係する研究が物理学賞に選ばれたのは、ここ10年で3回目。小林教授は「21世紀は情報の世紀と言われるが、情報の伝達手段となるのは光だ。さまざまな分析技術やナノテクにも光が使われており、光科学の重要性はますます高まるだろう」と話している。【西川拓】


 

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