26日の日大戦で35年、70シーズンの監督生活に幕を引き、慣れ親しんだ神宮球場を去った。
「役に立つ人間になれ」。選手には野球を通じて我慢強さ、粘り、執着心を身につけさせた。ときには寝食を共にし「野球だけじゃ困る。勉強も」と言い続けた。
心血を注いだのは「心の野球」。心に意識を持てば、フットワークが生まれる。それが勝利につながる。だから色紙を頼まれると「姿即心」(すがた すなわち こころ)と書いた。石毛宏典(元西武)、中畑清(元巨人)ら多くの選手をプロに送り出した。アマ球界にも「太田ジュニア」は数え切れない。最も印象に残った選手は、と聞かれても「誰と言っても……。全員。選手たちの積み重ねで今がある」。
とっつきにくく見えるが、「根っから陽気」。師と仰いだ東京六大学、明大野球部の故島岡吉郎総監督そのままに、こまやかな人間味ある指導で、選手たちから「おやじさん」と慕われた。
激戦の東都で、前人未到の通算501勝(339敗)。ライバル東洋大で34年監督を務める高橋昭雄さん(57)は「最後まで勝負をあきらめない。人を育てるのもうまかった」と評する。
野球への愛情は変わらないが、怒鳴ることが減って「勝負どころの勘が鈍ったな」と引き際を考えていた。引退後は決めていないが、「『心の野球』を伝えられた。今は何も思い残すことはない」。【相川光康】
【略歴】太田 誠(おおた・まこと)さん 静岡県出身。駒大では2度首位打者。社会人の電電東京(現NTT東日本)でも活躍。71年春から監督。優勝はリーグ22回、大学選手権5回。69歳。