ソニーは,1インチ型などの小型ハード・ディスク装置(HDD)にAV(オーディオ・ビジュアル)処理に適した拡張コマンドを実装する「CYBERCAPTURE」技術を開発した。主にデジタル・カメラや携帯電話機など携帯型機器に向けた技術で,機器側のマイクロコントローラの負荷を減らしたり,HDDの実効的なデータ転送速度を向上したりできる。
既に米Seagate Technology LLCがCYBERCAPTURE対応のHDDを製品化することを表明しており,ソニーもこの技術を実装した5Gバイトの1インチ型HDDを一般消費者向けに発売する(図1)。米国,欧州,東南アジアでの発売は2005年11月になる予定。日本では2006年春に発売する。CYBERCAPTUREの機能を利用するためには,機器側の対応が必要になる。対応機器の発売を表明するメーカーはまだ現れていないが,米NuCORE Technology Inc.がこのコマンド・セットを搭載した画像処理LSIの製品化を検討している。ソニーは機器メーカーに対してコマンド・セットのライセンスを始めており,Seagate社以外のHDDメーカーへのライセンスも検討している。
ATAの拡張コマンドを利用
CYBERCAPTUREは,ATAインタフェースの拡張コマンドを利用する。独自に用意した「Write File」や「Read File」,「Rec」,「Play」,「Stop」,「Erase File」など単純なコマンドを利用してファイルを読み書きできる。一般に機器側のマイクロコントローラなどが担う,ディスク上のファイル割り当て管理や記録再生時のデータ配置の最適化処理などをHDD側のマイクロコントローラで行うようにした(図2)。CYBERCAPTURE対応のHDDを,非対応の機器やパソコンに接続した場合,ATAの標準コマンド・セットを使ってデータをやりとりする。
HDDのファームウエアを書き換えるだけで対応でき,部品の追加は不要という。ファームウエアの容量は128Kバイト程度。マイクロコントローラやDRAMは現行のHDDが搭載するものを使える。
コマンド発行回数を低減
Write Fileはファイル単位でデータを読み書きすることが可能なコマンドで,例えばデジタル・カメラの静止画ファイルを書き込む場合,このコマンドを1度発行するだけで済む。Write Fileコマンドを使えば,最大で32Mバイトのファイルを一度のコマンドで書き込める。通常はデジタル・カメラのマイクロコントローラの制御処理に割り込む形で,数百回のWrite Sectorコマンドを発行し,データを書き込む必要があった。この結果,1インチ型HDDの場合,書き込み時のデータ転送速度が3Mビット/秒~19Mビット/秒に低下していたという。本来はディスク最内周で32Mビット/秒程度,最外周で60Mビット/秒程度での書き込みが可能なはずである。
Write Fileを用いると,こうした割り込みを行う必要がないため,本来の書き込み速度に近い値を実現できる。Write Fileでは,データ転送速度が最も高いディスクの最外周をキャッシュ領域として確保する「Disk Caching」機能を利用できる。この領域に優先的にデータを書き込める。この機能を使うと,データ転送速度を60Mビット/秒程度に高められるという。連射機能などに活用できる。
データを意図的に分散配置
動画撮影のように連続的に大量のデータを書き込む場合には,Recコマンドを利用する。このコマンドでは,安定的に高いデータ転送速度を維持する工夫を施した。具体的にはディスクを内周から外周にかけて5つのゾーンに分け,それぞれのゾーンに一定量のデータを順次書き込むようにした。データを書き込むヘッドは,内周にあるゾーンから外周にあるゾーンに順を追って移動し,次に外周のゾーンから内周のゾーンへと移動する。これによって実質的にディスク内周部よりも高いデータ転送速度で書き込める。1インチ型HDDの場合,平均的に45Mビット/秒のデータ転送速度を確保できるという。ディスク外周部にファイル情報を格納したテーブルを記録するようにし,データを記録している最中に電源が突然切れるなど不測の事態に備えている。
今回CYBERCAPTUREで実装した技術は主にデータ転送速度を改善するものだが,今後は消費電力や起動速度,信頼性を向上する技術も加えていくという。 |