小泉純一郎首相の私的諮問機関「皇室典範に関する有識者会議」は25日、皇位継承資格について、女性・女系天皇を認めるとの結論を導き出した。千数百年にわたって、男系男子に限ってきた継承からの転換で、約10カ月に及んだ議論は大きなハードルを越えた。ただ、継承順位や女性皇族の結婚を含めた皇族の範囲については議論が残されており、有識者会議は、国民が合意できる最終報告に向け、詰めの作業に入る。
◇「男子・男系」退け
来月40歳の誕生日を迎える秋篠宮さま以降、皇室には男子が生まれていない。こうした現状を踏まえ、今年1月から始まった有識者会議での議論は、将来継承者がいなくなる可能性を考慮し、「歴史・伝統、国民の意識」を配慮しながら安定的な制度確立を図る道を探ってきた。
現行制度では、皇太子さまが即位した後の皇位継承順位の第1位は、秋篠宮さまだ。今回、有識者会議が決定した「女性・女系天皇」容認が、改正皇室典範として成立すれば、皇太子さまの長女敬宮(としのみや)愛子さまが即位する道が開かれたことになる。
有識者会議の設立された背景から考えれば、女性・女系天皇容認との結論は、既定路線との見方もできる。ただ、長い歴史を持つ皇室にとっては、大転換であることに変わりはなく、女性・女系天皇容認によって制度やしきたりの変更が迫られることになる。
まず第一に皇位継承順位の問題だ。有識者会議では、できるだけ天皇の血筋に近い皇族に継承するとのスタンスで傍系より直系優先の立場から、「長子優先」と「兄弟姉妹間で男子優先」の2案に絞った。
長子優先なら、生まれた時点で皇位が決定しており、天皇としての養育などを考慮すると受け入れやすい。男子優先になると、男子が生まれた時点で、皇位の継承順位が逆転する。たとえば、長子優先なら、愛子さまは現状で皇太子さまの次の皇位継承者と確定している。男子優先では、弟が生まれると、弟が継承者となり、継承順位が定まらないという不安定要素がある。
しかし、女性・女系天皇容認が前提となると、男系男子の伝統を重視する考え方に立てば、男子がいるのに皇位を継承しないのは不自然との見方もある。また、女性皇族が結婚しても皇室にとどまるとすると、皇族の範囲をどこで限るかが検討課題だ。
皇位継承制度とは別に、女性天皇の配偶者の立場や処遇も前例がないだけに難しい問題だ。【大久保和夫、竹中拓実】
◇専門家 歓迎と反発
「女性・女系」天皇容認の結論にも、専門家からは、歓迎と反発の二つの意見が交錯した。
有識者会議で女性・女系天皇容認の立場から意見を述べた所功・京都産業大教授は「男系男子継承の考え方を退けたことだけでも、会議の果たした役割は大きい」と語る。そのうえで「長子優先か兄弟姉妹間で男子優先とするかなど残された課題はあるが、有識者会議ではそこまで決定しなくてもいいのではないか」とし、今後国会などで十分な議論を積むべきとの考えを示した。
同様に女性・女系天皇容認派の高橋紘・静岡福祉大教授は「男系男子への固執は、六百年前に現皇室と別れた伏見宮の系統の方を連れて来るということで、国民感情から見ても受け入れられるとは思えない。落ち着くべきところに落ち着いたという感じだ」と歓迎する。「世論調査で『女性天皇』容認が8割を超えていることから見ても、国民が女性天皇を支持していることは明らかで、その国民の声を無視すべきでない」と反論した。
一方、「男系男子」派の識者らが相次いで反論の団体を結成。その一つで、「男系男子による皇位継承を求める学者らでつくる皇室典範を考える会」の中西輝政・京大大学院教授は「最低でも10年ぐらいかけて考える重要な問題をあまりに早急に結論を出しすぎる」と批判した。さらに「男系男子継承の大原則をここで大転換することは国民に理解されているとは思えない。有識者会議は国民の声にもっと耳を傾けるべきだ」と指摘。会議の委員構成についても「専門知識のない人もおり、国民を代表するような選び方がされていない」と話した。
◇合意形成には曲折も
政府は来年9月までの小泉政権の間に結論を出す方針で、改正案の成立を急ぎたい考えだ。だが、女性天皇容認が大勢の自民党にも各論では意見の隔たりがあり、国会での慎重審議を求める声もある。有識者会議の吉川座長は「密室で決めるやり方ではないと自負している」と、開かれた論議が行われたことを強調するが、皇室制度変更に向けた合意形成には曲折も予想される。
「次期通常国会で皇室典範の改正がなされる見通しとのことで、今回の結論がすべての国民に歓迎されるものとなるよう全会一致での成立を目指したい」
自民党の武部勤幹事長は25日、有識者会議の決定を受けてコメントを発表した。小泉首相が皇室典範改正案を来年の通常国会に提出する考えを表明したのに歩調を合わせたものだった。
しかし、武部幹事長があえて「すべての国民に歓迎」と強調したのは、それだけ異論が出る可能性があると見ていることの裏返しとも受け取れる。自民党はここまで有識者会議の議論を静観してきたが、「改正案を作る段階では議論に火がつくのは確実」(閣僚経験者)との見方が強い。【野口武則】