自動車盗の防止策として最も有効な装置とされるイモビライザー(電子式移動ロック装置)を搭載した同一車種のRV(レジャー用多目的車)が、今年に入り東京都内で24台、盗まれていることが警視庁の調べで分かった。うち半数近くは、最新の「改良型」を搭載した車で、イモビライザー自体が破られた可能性が高い。警視庁は、高度な技術をもつ自動車盗グループが暗躍しているとみて警戒を強めている。【鈴木泰広】
このRVは国内上位の販売台数をもつ人気車種。02年8月以降、改良型のイモビライザーを標準装備している。改良型の突破が指摘されるのは初めてで、警察当局から連絡を受けたメーカーは、さらに性能の向上を検討している。
捜査3課などの調べによると、4月12日朝、練馬区の男性(58)が、自宅からRVが盗まれているのに気づいた。改良型イモビライザーを搭載していたが、エンジンキーは盗まれていなかった。レッカー車でけん引された痕跡もなく、犯人は何らかの方法でイモビライザーを破り、エンジンを始動させたらしい。
この車を含め、改良型を搭載した同車種のRVは、今年1~10月に都内で計12台盗まれている。うちキーを付けたままの被害は1台にすぎず、残る11台は「キーなし」だった。現場の状況などから、そのほとんどは「イモビライザー破り」とみられるという。
旧型を搭載した同車種RVも12台が被害に遭っており、改良型と合わせて搭載車の被害は計24台。非搭載も含めた被害総数は85台で、搭載車が3割近くを占めている。
イモビライザーは、キーに埋め込まれた電子チップの暗号を、車体に内蔵したコンピューターで照合し、正規のキーと判別されなければエンジンが始動しない仕組み。00年にこのRVに標準装備された旧型は、コンピューターを取り外される手口で破られたことが確認されている。
改良型は、コンピューターを暗号照合とエンジン制御の二つの機能に分け、取り外しにくい位置に設置。さらにエンジンを始動するたびに暗号が変更される仕組みも取り入れ、性能を高めた。RVのメーカーは「イモビライザーの盗難抑止効果は高いが、100%ではない。駐車場の照明などさまざまな対策で被害を防止してほしい」と話している。
90年代から導入が始まったイモビライザーは当初は高級車だけだったが、日本損害保険協会の調査では、05年1月現在、国内メーカーが販売する165車種のうち57車種で標準装備されている。盗難に遭う確率が約8分の1になった車種もあり、自動車盗防止の切り札として官民が普及に取り組んでいる。半面、イモビライザーが破られるケースについては公表された統計がなく「最高の信頼性」だけが印象づけられている面が否めない。
イモビライザーによって複製キーを使う手口は通用しなくなった。しかし(1)レッカー車でけん引する(2)わざと追突し、運転手が車から降りたすきに乗り逃げする(3)キーの抜き忘れを狙う--などの手口での被害はなくなっていない。イモビライザーがあっても取り外されて盗まれた車も少なくない。メーカーは将来構想として「ドライバー識別装置」や盗まれた後に遠隔操作で車を止めるシステムを検討しているが、こうした動き自体、盗難防止の技術が窃盗犯とのイタチごっこであることを示している。
自動車盗の認知件数は03年に6万4223件とピークに達した。官民合同プロジェクトチームはイモビライザーの宣伝、普及に力を入れる。保険業界が搭載車の保険料を減額し、後押しする。
こうした施策に加え、より多くのユーザーに自動車盗の危険を知ってもらうことも被害の抑止には必要だ。そのために、イモビライザーが「攻撃」にさらされる実態を明らかにし、弱点を克服する対策をオープンに議論することが求められる。