楽天がTBSに経営統合を提案してから13日で丸1カ月。序盤はつばぜり合いを演じた両社だが、楽天はTBSが今月末にまとめる検討結果を待つ姿勢を見せ、事実上の休戦状態に入った。三木谷浩史・楽天社長の経営統合への意欲は強く、長期戦を辞さない考えもちらつかせるが、資金面では不安ものぞく。楽天はTBS株の19.09%を持ち、依然としてTBSの買収防衛策の発動基準の20%一歩手前のまま。両社は話し合いに入るのか、全面対決になだれこむのか。水面下のせめぎ合いが続く。【TBS問題取材班】
◇誤算続きの楽天…「長期戦も」とけん制
「1カ月もたてば、人間、忍耐力も出てくる。あせりは全然ない」
9日の決算会見で、楽天の三木谷社長は進まないTBSとのやり取りをこう振り返った。
1カ月前、三木谷社長は「大きくジャンプする意味で、資本提携は必要だ。中途半端な気持ちではないという意味で株式も取得した」と短期決着への熱意を強くにじませた。「ルールにのっとって株を取得し、計画をきちんと提案したとの自負があった」と楽天幹部は解説する。得意の政財界への根回しもすませ、提案は歓迎されるはずだった。
だが、世間の反応は予想外に冷たかった。頼みの財界からも「敵対的買収」と見る声が出た。早期にTBSの妥協を引き出し、資本・業務提携に進むもくろみは外れた。
もう一つの誤算は株価だった。楽天の資金調達力の源は高い株価だ。しかし、統合提案の発表当時、8万6000円前後で動いていた楽天株は、10月末には一時、7万円を割り込んだ。買収資金の調達と財務改善のため楽天は増資を検討していたが、株価低迷が大きく影を落とした。TOB(株式の公開買い付け)でTBS株の過半数を取得するには2000億円程度は必要。ところが巨額の資金調達は難しくなっている。
株式取得資金の借り入れも、交渉が長期化すれば重荷になる。TBS株取得に楽天がかけた金額は1110億円。金利負担は年7~8億円と見られている。TBS株の配当が年8億円見込めるため、三木谷社長は「配当収入の方が大きい」と説明するものの、期末配当を手にするのは来年6月以降。金利の支払いは先に来るし、金利水準が上がることもある。銀行が借り換えに難色を示す可能性もある。
ただ、楽天はTBSの対応次第では、20%超に株式を買い増す姿勢を崩していない。国重惇史副社長は9日、買い増しについて「ノーコメント」で通した。楽天はすでに10月半ばの取締役会で、経営陣の判断で20%超まで買い進むことを事実上、承認している模様だ。数%なら、株を買い増す資金的な余裕は十分あるとみられる。
楽天の基本戦略は、大株主として圧力をかけ続けること。三木谷社長は「我々には二つの立場がある。一つは株主、もう一つは提案している立場」と述べる。TBSの対応次第では、業務提携をしたうえで役員などの人材交流を進め、ジワジワと経営統合に話を進める妥協策も考えられる。楽天幹部からは「2~3年かけても」との声が漏れ始めた。長期戦に入る覚悟も見せ、TBSをけん制する発言とみられる。
◇株放出狙うTBS…月末の回答が焦点に
当面の焦点は、TBSが月末までにどんな回答を用意するかだ。TBSが提案を全面的に拒否すれば、楽天は20%超まで株を買い増す可能性が高く、TBSは買収防衛策を発動する決断を迫られる。発動すれば法廷闘争は避けられず、「過剰防衛」と判断される可能性はゼロではない。このためTBSにとって、楽天に何らかの業務提携を持ちかける一方、見返りに保有株の一部を手放すよう働きかけるのが最も現実的なシナリオとみられる。
この場合、まず、楽天に魅力的と映る業務提携を逆提案することが必要だ。楽天は、インターネットの特性を生かした視聴者参加型番組の制作などを提案している。「ネットと放送の融合」が進んだと世の中に打ち出せる具体的な内容でなければ、楽天側も納得しないと見られる。
そのうえで、楽天に株式を手放してもらうためには、はめ込み先を用意する必要もある。TBSはこれまで安定株主対策を進め、過半数確保に自信を見せてきた。これを仕上げるには、楽天の持ち株を安定株主に移す難しい作業が必要だ。
TBSは序盤戦では、「楽天は敵対的」との印象を世の中に植え付け、優位に事を運んできた。だが、それだけでは楽天の持つ19%の株は動かない。三木谷社長にTBS株をすべて手放させるのは困難だが、「魅力ある業務提携」と「受け皿の確保」のセットで、一部でも放出を促すのがTBSの基本戦略になるとみられる。
楽天の国重副社長は、「TBSから月末までに回答が返ってくる。その前にTOBをやるのはいくらなんでもない」と言う。一方のTBS幹部も「月末に、楽天の提案にどう総合的な判断を下すかという段階を迎える」と発言している。
互いに角を突きつけた形の両社が、「11月末までは敵対しない」との言い分では奇妙に一致し始めた。両社が水面下で、解決に向けた準備をどう進めているのか。月末までに、大きな山場を迎えることになりそうだ。