江戸時代、五街道の起点だった東京・日本橋の繁栄も今は昔。最近は丸の内や六本木などの大規模再開発の陰で元気がなかった。そこで立ち上がったのが、老舗のだんな衆ら地元有志。他とはひと味違う「お江戸日本橋」の再生を目指す、その心意気は実を結ぶのか。【瀬尾忠義、小国綾子】
■三井発祥の地
24日、この地の新しいランドマーク「日本橋三井タワー」のグランドオープンセレモニーが行われた。隣接する重要文化財の三井本館を保存しながら建設した、地上39階、地下4階建て。オフィス部は既に満室で、12月2日には30~38階に世界有数の高級ホテル「マンダリン・オリエンタル・東京」が開業する。
開発主の三井不動産は先月、近くのビルの一角に三井グループの起源である江戸時代の「越後屋呉服店」の外観を再現した。来春まで「三井越後屋ステーション」として日本橋の案内所やカフェを備えた情報発信基地となる。なにしろ日本橋は三井発祥の地。「地盤沈下」に甘んじるわけにはいかないのだ。
東急百貨店跡地に昨年3月開業した「COREDO(コレド)日本橋」をはじめとする一連の再開発ラッシュが、地元の再生意識に弾みをつけた。
■空を取り戻す
「取っかかりは日本橋に空を取り戻すこと」というのは、30年余り活動している「名橋『日本橋』保存会」(会長、井上和雄・三越相談役)。かつては江戸城越しに富士山が望めたという日本橋も、今は橋の上を首都高速道路が走る。同会は「日本橋に青空を、日本橋川に太陽の光を」を合言葉に高速道路の移設を求めてきた。
副会長で老舗菓子店「榮太樓総本鋪」相談役の細田安兵衛さん(78)は「2016年の東京五輪招致の動きで、移設計画も現実味を帯びてきた。今の橋が創立100周年を迎える11年までにめどをつけたい」と話す。
■よそ者の視点
だんな衆だけではない。地元の老舗、名店を知ってもらおうと、毎週木曜日に一般向けツアーを主催しているのは「日本橋巡りの会」。仕掛け人は愛媛県出身で日本橋在勤25年の会社員、川崎晴喜(はるき)さん(49)だ。敷居が高そうな老舗を案内するツアーは、毎週10人の定員が常に満員の人気。「よそ者だからわかる魅力もある。日本橋はかつて日本一だった店が残る街。この街の人や品物に触れるたび、江戸がよみがえる気がします」と川崎さん。店側も自慢の品を振る舞ったり、古い写真を見せて客を楽しませる。
再生に向けた活動は広がっている。日本銀行は趣のある本店旧館を昨秋からライトアップ。中央通りの歩道には商店などがボランティアで花壇を作り、中央区は区道の電線地下化を進める。共通するのは、日本橋の歴史に誇りを持ち、「ブランドのブティックを誘致するだけの街づくりはしない」との思いだ。
地権者が複雑に入り組む日本橋では、広い土地に高層ビルを建て、新しいテナントを集める再開発は難しいとされる。だが、「住民もだんな衆も在勤者も『日本橋が好き』という一点で一体なのがこの地の強み」と細田さん。「丸の内の歴史は明治以降でしょ。こっちは創業300年、400年の老舗もざらの日本橋。見ていてください」
毎日新聞 2005年11月24日 13時26分 (最終更新時間 11月24日 13時46分)