東京慈恵会医科大学付属青戸病院(東京都葛飾区)で02年、前立腺摘出の腹腔(ふくくう)鏡手術を受けた男性患者(当時60歳)が死亡した事件で、東京地裁は15日、業務上過失致死罪に問われた元同病院泌尿器科の主治医、長谷川太郎被告(37)に禁固2年6月、執行猶予5年(求刑・禁固2年6月)、執刀医の斑目旬(まだらめじゅん)(40)と助手の前田重孝(35)の両被告に禁固2年、執行猶予4年(同)を言い渡した。栃木力裁判長は「患者の安全より手術の経験を少しでも積みたいという自己中心的な利益を優先した行為は強い非難に値する。国民の医療への信頼を大きく傷つけた」と指弾した。
また判決は、手術を許可した当時の診療部長と副部長、輸血処置が遅れた麻酔科医2人についても責任を指摘。大学や青戸病院についても「死因を心不全と偽るなど組織ぐるみで隠ぺいを図ろうとした」と非難した。診療部長は起訴猶予、麻酔科医2人は不起訴処分となっている。
裁判では斑目、長谷川両被告側が麻酔科医の過失を死亡原因と主張し、前田被告側は「権限がなかった」などと主張。判決は「手術を安全に行う最低限度の能力がなく、被告らの過失と死亡の因果関係は明らか。麻酔科医の行為に過失があったことで、被告に責任がないとする根拠はない」と判断した。そのうえで、主治医だった長谷川被告について、患者に十分な説明をせず指導医を呼ぶことを断ったというとりわけ重い責任があると指摘し「医師としての適格性自体強く疑われる」と述べた。
判決によると、3被告は02年11月8日、前立腺摘出の腹腔鏡手術を安全に行う知識や経験がないにもかかわらず手術を実施。誤って静脈を傷つけるなどし、輸血処置を遅らせ、大量出血による低酸素脳症で脳死状態にして、12月8日に死亡させた。手術の実施に必要な大学の倫理委員会の承認申請などの手続きは取ってなかった。
斑目、長谷川両被告は懲戒解雇され、前田被告は出勤停止10日間の処分(休職中)。厚生労働省は04年3月、斑目、長谷川両被告を医業停止2年、診療部長を同3カ月の処分とした。【佐藤敬一】
毎日新聞 2006年6月15日 12時03分