1問で100万ドル。高額の懸賞付き難問が提案されたのは2000年5月のことだ。米クレイ数学研究所が発表した7問で、数学の「ミレニアム問題」とも呼ばれる。それより100年前にはドイツの数学者ヒルベルトが23の難問を提示している。この謎解きが数学の発展に寄与したことに倣った世紀の企画らしい▲賞金を手にした人はまだいない。だが、難問のひとつ「ポアンカレ予想」への関心が高まっている。今月、中国人数学者2人が専門誌に「完全な証明」を発表したからだ。フランスの数学者ポアンカレが1904年に出題した三次元空間の形にかかわる問題で、2人の論文は300ページ以上に上る▲専門家に聞くと、実は彼らより前にこの難問を証明したと目される人物がいる。ロシアの数学者ペレルマン氏だ。02~03年に60ページ程度の論文を公表したが、検証には時間がかかる。問題はそれが「完全な」証明だったかどうかだが、素人には「賞金はどっち?」が気にかかる▲科学技術政策研究所は先月、「忘れられた科学-数学」と題した報告書を公表した。数学の論文数の上位は米、仏、独、中、英の順で日本は6位。研究費も少ないと分析する。数学者は小説の登場人物や国の品格を論じる著者として注目されるが、実情は厳しい▲報告書は他分野との融合や産業界との共同研究を提案する。応用に力点が置かれているようだが、国民に忘れられないためにはポアンカレ予想のような純粋数学のロマンも見逃せない▲ペレルマン氏は「査読付き論文誌への掲載」という賞金の条件を満たしていないともいわれる。「とてもシャイで表に出たくないため」とのうわさも聞いた。浮世離れしたこんな話も数学をアピールする魅力ではないだろうか。
毎日新聞 2006年6月18日 0時14分