民間駐車監視員や短時間での取り締まりが導入された改正道路交通法が施行されて、ちょうど1カ月。違法駐車は激減し、渋滞が緩和し、駐車場の利用者が大幅に増えている。一方、警察が路上駐車を認める「駐車許可証」の発行申請は急増した。運送業者は人件費などのコストが上がったが、価格に上乗せする動きは出ていない。【遠山和彦、田村彰子】
■引っ越し、介護業界
冠婚葬祭や引っ越し、寝たきりのお年寄りへの訪問介護など、やむを得ず路上駐車が必要な場合がある。そんなときは、警察署に「駐車許可証」を申請して発行を受ければ、駐車が可能になる。
警察庁によると、法施行後半月(6月1~15日)の許可証の発行件数は2万9753件で、昨年同期の約3倍に上った。特に、引っ越し業者への発行は1059件で27倍にもなった。大手の日本通運は「引っ越し中も現場には民間駐車監視員がやってくる。これまで駐車許可証をとるのは事務所の引っ越しなど時間のかかるようなケースが多かったが、時間が短めでも申請するようにしている」という。
また、福祉関係では、介護関係者への発行が2万803件で昨年の2・6倍だった。現場からは「体が不自由だと乗り降りに時間がかかる。許可証という手段で自衛するしかない」との声が上がる。しかし、病院まで送り迎えする介護タクシーの場合は、営業内容によっては認められない場合もあるという。
■駐車場業界
駐車場業界は活況を呈している。東京・渋谷の道玄坂周辺は、法施行前、不法駐車の乗用車やバイクに占領されていた。ここに5月8日、「パーク王」(大木茂樹社長)の新しい駐車場(105台収容)がオープンした。都内で不足しているバイクスペースが84台もあるのが人気だ。大木社長は「6月の駐車台数は5月の3倍です」と笑顔で語る。
もともとバイク買い取り業などをしていた大木社長は客から「駐車場がないと困る」と聞き、法改正を当て込んで新規ビジネスに乗り出した。今後も繁華街を中心に展開する予定だ。
■運送業界
集配先の近くに駐車場がなく、運ぶ荷物も多い所では、運転手と助手の2人体制にする運輸業者も少なくない。日本通運では、助手は新たに雇用せず、内勤職員を配転した。コイン式の駐車場を活用することも認めた。
営業所によっては今までの倍近い駐車場費用がかかっており、コスト高が悩みの種だ。原油高の影響も追い打ちをかける。しかし影響の大きい一般消費者に対して「宅配便の価格上乗せは考えていない」。佐川急便でも一部で2人体制にするなどコストは増えたが、消費者に転嫁することは考えていないという。
コンビニエンス店大手のセブン-イレブン・ジャパンでは、1万1000ある店舗のうち1700店舗に駐車場がない。このため、2人体制での運行や店の従業員が商品の搬入を手伝うなどして対応している。コストについては企業努力で解消して商品に上乗せするようなことはないという。
■支払い、大半は「放置違反金」?
反則金を支払わない「逃げ得」に歯止めを掛けるため、法改正では、違反車両の所有者が責任を負う「放置違反金」制度が新たに設けられた。
違反金の請求が会社に来てしまうレンタカー業界は、車の返却前に反則金を払うよう利用者に求めている。大手のニッポンレンタカー(全国900営業拠点)では、6月1カ月間で顧客が駐車違反の取り締まりを受けたケースが約100件あったが、いずれも顧客本人と連絡が取れ、本人に反則金の支払いを求めた。同社は「お客さまが取り締まりにあう件数も予想より少なく、まずは想定の範囲内だったが、しばらくは様子を見たい」と話す。
警察庁によると、6月1~5日までに違反のステッカーを張られた違反者のうち警察署に出頭して反則金を払ったのは全体のわずか15・3%。支払っていない違反車両の所有者には、順次、放置違反金が請求される。同庁は警察署に出頭して反則金を支払う人は3割程度にとどまり、大半は放置違反金となると予想している。
■違法駐車は激減
警視庁の調査では都内の主要10路線の渋滞の長さは、法施行後14日間で前年比約35%も短くなった。この結果、車の流れが約15%早くなった。
一方、大阪府警が法施行前後20日間を比較したところ、大阪市四つ橋筋で、渋滞時間が半減。移動時間が約16%少なくて済むようになった。同市堺筋では、渋滞時間が約13%減り、移動時間が約22%少なくなった。
京都府警によると、京都市四条通りと烏丸通りでは放置駐車が法施行直前の約800台から、6月下旬には、245台にまで減っていた。
毎日新聞 2006年7月1日 23時52分