早稲田大の研究費不正問題が波紋を広げている。不正を指摘された理工学部の教授は大学に辞表を提出し、今後処分を受ける見通しだ。大学は総長らの処分も発表している。
早大の調査によると、教授は文部科学省の科学技術振興調整費など国の研究費約1472万円を実態のない学生アルバイト代として架空請求していた。その一部を個人名義の銀行口座に還流させ、そのうち900万円を投資信託で運用していたという。
架空請求した費用のうち使用した分については、学生の旅費や実験材料の購入費など研究室の運営費用に充てたという。
だが、使用目的がなんであれ、架空請求や投資信託化は明らかなルール違反だ。大学側が私的流用と判断したのは当然のことだ。
しかも教授は02年1月~06年1月まで国の総合科学技術会議の議員を務めていた。会議は首相を議長とし、国の科学技術政策の方向性を決める司令塔の役割を担っている。倫理観も見識もある人が議員を務めているというのが社会の認識であり、期待である。今回の不正発覚により、科学者への信頼は著しく損なわれた。
教授には、論文ねつ造疑惑や関連企業との不明朗な取引の疑いもある。不明朗な取引については04年にも指摘され、大学から説明を求められていた。その際には徹底した調査が行われず、国にも報告がなされなかった。教授自身だけでなく、大学の研究費管理にも甘さがあったといわざるをえない。
教授が国の要職にあったことも影響してか、今回の文科省の対応はすばやかった。大学側が不正の再発防止策を提出するまで、同大に対する科学技術振興調整費を凍結すると通知している。科学技術振興調整費を受け取っている全国の機関に対しても、自己点検と報告を求めた。「研究費の不正な使用に関する対策チーム」も設置し、公的研究費利用のルールの徹底や大学内部の管理・監査体制などを検討している。
しかし、振り返ってみれば、研究費不正は過去にも繰り返されてきた。にもかかわらず、国はこれまで抜本的な対策を講じてこなかった。それが今回のような不正の放置につながった可能性もある。
早大のケースは言語道断だが、これを個人や一大学の問題として片付けるべきではない。研究費不正が頻発する背景をきちんと分析し、国や大学が必要な対策を取ることが急務だ。
その際に留意してほしいのは、単に研究者に厳格さを求めるだけでなく、公正な研究を活性化させることもあわせて考えることだ。たとえば、研究費の使いにくさを改善して不正な研究費のプールを防いだり、煩雑な事務手続きを整理することも必要だろう。
科学技術立国を目指す日本は、緊縮財政の中で科学技術予算を例外的に拡充してきた。それが特定分野の研究費バブルを招き、ひいては不正を誘発してきた可能性がないか、改めて見なおすことも重要だ。
毎日新聞 2006年7月2日 0時21分