米国の「お荷物」と言ってもよかろう。米海軍グアンタナモ基地(キューバ)の収容所は、虐待や拷問のうわさが絶えず、以前から国連機関や欧州諸国、人権団体などが収容所閉鎖を要求していた。現在約460人の拘束者は、いつ裁判を受けられるか分からず、容疑不明のまま何年も拘束されている者も多い。
そんな「グアンタナモ」について、米連邦最高裁は画期的な判断を示した。基地内に設けた軍事法廷での裁判はジュネーブ条約や国内法に違反する。同法廷の設置をブッシュ大統領が命じたのも越権行為だというのだ。
収容所自体の閉鎖を命じたわけではない。だが、テロ関連で拘束された人々の収容と裁判のあり方に重大な問題があるなら、グアンタナモは根本的な改革を迫られる。米政府はこの際、司法の判断を尊重し、収容所の閉鎖を真剣に考えるべきである。
同収容所について私たちは、少なくとも透明性を高めるよう求めてきた。多くのイスラム教徒を拘束する収容所は、米政府の真意はどうあれ、「イスラム抑圧」の象徴的存在と見られがちだ。この施設が、米国とその同盟国に対するイスラム世界の反感を増幅しているのは確かだろう。
怪しげな人物はみんな放り込んで際限もなく拘束する。グアンタナモについてそんなイメージが定着すれば、「テロとの戦争」の国際協調も正当性も保てなくなる。米国が言うように対テロ戦争がグローバルな戦いなら、カリブ海の島にある収容所の悪評は、日本にも影響する。イラクにいる自衛隊の安全にもかかわってくる。
同収容所に問題があるのは既に明らかなのだ。虐待などの不当行為は、米当局の調査でも確認された。国連人権委員会の実態報告(今年2月)などを受けて、米側は一定の改善措置を取ったが、6月上旬には長期拘束への抗議ハンストを続けていた3人の収容者が自殺する事件も起きている。
そんなタイミングで下された最高裁判決だった。米当局は従来、グアンタナモの収容者を「敵の戦闘員」などと呼び、戦争捕虜に該当するかどうかは明確にしてこなかった。最高裁が、戦争捕虜の保護を定めたジュネーブ条約などを踏まえて、軍事法廷を違法と断じた意味は大きい。
ブッシュ大統領は、新たな立法措置により軍事法廷を存続させたい意向だという。ラムズフェルド国防長官は、収容所閉鎖に断固反対している。だが、容疑者を一般法廷で裁くことも可能だ。マスメディアも容易には近づけない島に収容し、しかも軍事法廷で裁くことに固執する必要はあるまい。
日米首脳会談の共同会見で、米側記者団の質問は、この判決に集中した。大統領の「越権」を指摘した判決は、他の施策、たとえば令状なしの盗聴を認めた大統領決定の正当性にも影響してくる。テロとの戦いは大切だが、指導者が独走すれば支持を失う。判決を機に、ブッシュ政権は対テロ戦争の在り方を考え直すべきだ。
毎日新聞 2006年7月2日 0時28分