事故当時4歳だった、金月美帆ちゃんの命が失われた責任はどこに--。7日午前、神戸地裁で始まった、砂浜陥没事故の判決公判。業務上過失致死罪に問われた国と兵庫県明石市の当時の担当職員計4人に対する司法判断は、全員無罪だった。冒頭、判決を聞いた瞬間、傍聴席では母の路子さんが床に崩れ落ち、父の一彦さん(39)が抱きかかえて法廷外に連れ出した。ハンカチで涙をぬぐう親族たち。「信じられない」。法廷は静まり返った。
「被告4人は無罪とする」。午前10時すぎ、佐野哲生裁判長が判決の主文を言い渡した。112人でいっぱいになった傍聴席の2列目には金月さん夫婦がおり、一彦さんが何度も首をかしげて唇をかんだ。隣で顔を覆って肩を震わせて、おえつを漏らす路子さん。廷内に判決文を読み上げる佐野裁判長の声と、路子さんの号泣する声だけが響いた。
判決文の朗読が続き、路子さんは次第に体を支えきれなくなったように床に崩れ込んだ。見かねた一彦さんが抱きかかえて法廷の外へ。無言で涙が止まらない路子さんを抱きしめると、一緒に裁判所内の別室へ。一彦さんは傍聴席に戻ったが、路子さんは法廷には戻らなかった。
一方、4被告は表情をほとんど変えず、判決を聞いていた。
金月さん夫婦はこの日午前9時半ごろ、地裁に来た。一彦さんは黒のスーツ姿。表情は硬く、言葉少なだったが、「やっと責任が追及される日が来た。本当に長かった」と心境を語っていた。
2人は、事故の責任が明らかになる日を心待ちにし、この日朝、神戸市西区の父親宅で東京の自宅から持参した美帆さんの位はいに、「つらい思いをさせたね」と語りかけたという。いまだに4被告から謝罪はない。一彦さんは「謝るのは普通のことのはず」と話していたが、裁判所も2人の願いに応えることはなかった。
▽大塚裕史・神戸大教授(刑法)の話 陥没が相次いでいたのに、利用者に注意を促す措置が不十分だったことからすると、事故は「人災」だった。それでも全員が無罪になったのは、裁判所が過失事件の構成要件の「予見可能性」などを厳格に求めたためで、最近の厳罰化の傾向からすると異例とも言える。しかし、個人は無罪でも、判決は注意義務を明確に認めた。行政は「人命に対する意識を改めよ」という裁判所のメッセージを真摯(しんし)に受け止めなければならない。
毎日新聞 2006年7月7日 12時51分