クボタ旧神崎工場(兵庫県尼崎市)の周辺で生活歴があり、アスベスト(石綿)関連がんの中皮腫を発症した女性2人の肺組織から、猛毒とされる青石綿が大量に検出されたことが、「ひまわり診療所」(東京都江東区)の名取雄司医師らの調査で分かった。同工場では青石綿を使っていた時期があり、2人と青石綿との接点は同工場しか確認できなかったという。周辺では約100人が中皮腫になり石綿公害の様相を呈しているが、肺から大量の青石綿が検出されたケースは初めて。名取医師らは、発症と工場の因果関係がより強くなったとしている。
調査結果は、10月25日から富山市で開く日本公衆衛生学会総会で発表する。名取医師らは、同工場周辺で生活歴があって石綿関連の職業歴がない同県伊丹市の土井雅子さん(58)ら女性5人、男性1人の中皮腫患者計6人(うち3人死亡)から手術や解剖の際に取り出した肺組織を溶かして分析した。
光学顕微鏡では、乾燥肺1グラム当たりから石綿小体(たんぱく質付着の石綿)が平均410本(112~677本)見つかった。一般人の石綿小体は平均35本、職業上石綿を吸った人は平均1000本以上とされるが、6人ともその中間にあたる本数で、工場から飛び散った石綿などが関係していると推定された。
さらに、電子顕微鏡による詳細な調査を終えた土井さんら女性2人の肺組織からは、女性平均の少なくとも7~13倍以上の青石綿が検出された。青石綿は、一般の環境中からの検出は極めてまれという。
旧神崎工場では、1954~95年に白石綿を使用し、57~75年には青石綿も使っていた。
同工場周辺では奈良県立医科大などが統計的な手法を用いた疫学調査を実施。工場の半径300メートルで女性の中皮腫による死亡率が全国平均に比べて54倍に達するなど、工場に近いほど死亡率が高く、発症と工場との関係が強いと発表していた。
これに対し、クボタは周辺の中皮腫患者に最高4600万円の救済金を支払うことを約束しているが、これまで「工場との因果関係は不明」と説明してきた。【大島秀利、根本毅】
▽クボタの話 旧神崎工場で青石綿を使用していた時期があり、これが飛散しなかったと言い切れないのは従来の見解通り。今回の検討について詳細は承知していないが、疫学調査と同様に一つの知見と受け止めている。引き続き救済金制度にのっとり、周辺住民への対応を進めたい。
毎日新聞 2006年7月19日 15時00分