利害調整がうまく進まない。そのうえ、時間もなくなってきた。だからあきらめることにしたということなのだろう。でも、ちょっと情けなくはないか。
世界貿易機関(WTO)の多角的貿易交渉(ドーハ・ラウンド)は、主要6カ国・地域(G6)による協議が決裂した。大枠合意の期限は今月末とされていた。それを1カ月先に延ばしてでも、とりまとめようということで作業が行われていたはずだ。ところが、週末に再びG6の閣僚会議の日程が組まれていたにもかかわらず、早々と幕を引いてしまった。
WTOの事務局長自身が年内の妥結はないことを表明しているように、交渉がいつ再開されるのか、見通しはまったくない。状況は深刻で、ドーハ・ラウンドは凍結ではなく、実際にはすでに終了してしまったと考えた方がいいのかもしれない。
米政府が議会から与えられている交渉権限は来年7月1日に失効する。交渉権限を延長しようとしても、米国に有利となる保証がない限り議会は認めないだろう。そうなると、09年の新大統領就任まで、何も動かなくなってしまう。
貿易の自由化は、安い海外の製品やサービスと競合することになる人たちにとってはつらいことだ。とはいえ、自由化に向けた努力を放棄していいわけはない。貿易の促進は、世界の経済を効率化し、成長力を高めることになる。
各国それぞれ、守るべき産業と、伸ばしたい産業を抱えている。損得を計算しながら利害を調整し、世界全体で貿易障壁の削減を進めるのがラウンドの役目だ。
今回のドーハ・ラウンドは、途上国の開発に焦点をあてている。先進国との経済格差を縮小するには、途上国の産業の発展が必要で、先進国は途上国の産品に対し、自国市場の開放に努めることを掲げている。
交渉が行き詰まったのは、農業保護の削減で米欧の対立が解けなかったためだ。米欧が展開している余剰農産物の補助金付き輸出競争は、途上国の農業に打撃を与えている。開発ラウンドの趣旨からも、米欧は対立を解消し、農業問題の解決に努めるべきだ。
特に米国には指導力を発揮してほしい。WTOの前身のガット(関税貿易一般協定)時代から、貿易自由化を推進してきたのは米国だった。しかし、ドーハ・ラウンドでは消極的な対応が目立つ。
通商交渉の主力となっているのは自由貿易協定(FTA)だが、WTOによる多国間の貿易ルールは自由貿易体制の要であることに変わりない。日本も高関税による農業保護の削減を求められており、矢面に立ちたくないという気持ちもわかる。しかし、尻込みばかりしている印象を与えているのはマイナスだ。
保護主義の拡大で世界貿易が縮小し、戦争にまでつながった苦い経験からWTO体制は生まれた。その原点に戻り、WTO体制の維持・強化のために何ができるのか、加盟国、特にG6のメンバーには真剣に考えてもらいたい。
毎日新聞 2006年7月26日