来年10月に発足する郵政新会社4社の経営計画概要が固まった。郵便貯金銀行(ゆうちょ銀行)と郵便保険会社(かんぽ生命)は新規事業への積極的参入で収益を上げ、11年をめどに株式上場を目指す。郵便局会社は都心部での不動産事業を展開する。
4社のトップが決定したことに続き、1年3カ月後に迫った民営化への体制はほぼ整った。しかし、この経営計画は実行可能なのか。改革の趣旨や目的にかなっているのか。民営化する以上、立派な会社にすることは政府や経営トップの責任だが、郵政民営化は行政改革の一環でもあるのだ。
民営化後持ち株会社になる日本郵政の社長に就任している西川善文前三井住友銀行頭取は、金融事業で、官業ではできなかった積極的経営の展開を表明している。民営化会社全体の経営を預かる持ち株会社トップとしては、収益力をつけることは当然だろう。
計画概要でもゆうちょ銀行は個人向けの住宅ローンや高い利ざやが期待できる小規模事業者向けローンへの進出を見込んでいる。かんぽ生命も医療保険をはじめとする第三分野への進出が想定されている。郵便事業会社は成長性が見込めるアジア地域での国際物流進出が課題とされている。
ただ、基本的に役割の終わった官製金融機関を含めて郵政事業を民営化するということは、もうかる会社になればいいというだけでは済まないはずだ。郵便事業会社は民営化後も全国一律サービスを義務付けられている。欧州の例にもみられるように、郵便事業の収益性は決して高くない。そのため、一定期間、独占を認めたり、有力な国際物流企業を買収するなどの手立てが取られている。しかし、日本では国際物流一つ取っても、簡単に進みそうにはない。
郵便事業を支える郵便局会社のネットワークをどう維持していくのかも課題だ。郵便局会社は他の3社から業務の委託を受け、その手数料を主たる収入とするが、それで簡易郵便局を含めて2万4000を超える拠点を維持していけるのか。民間金融機関の代理店業務や小売り業務なども、どれだけ収益に寄与するのか不明だ。
郵便局会社の不動産業務に至っては、収益を上げるまで長い時間を要する。その間、社会的インフラの意味合いも持っているネットワークを維持していくことは容易ではない。
日本郵政公社が進めている郵便事業や郵便局の改革との整合性を取ることも必要である。
その一方で、抑制的であるべき金融事業では、グループ全体の収益力を引き上げることに狙いがあるのだろうが、なりふりかまわぬ戦略である。ゆうちょ銀行やかんぽ生命が将来も、持ち株会社を通じて政府との関係が維持されるとすれば、形を変えた民業圧迫の恐れがある。郵政民営化委員会はこうした点も含めて、郵政改革の原点からはみ出るような内容は厳しくチェックしなければならない。
民間だから何をやってもいい、とはならないのが郵政改革だ。
毎日新聞 2006年7月26日