福岡市西区の市立小学校で男性教諭(49)が小4男児(当時9歳)に差別発言や体罰などの「いじめ」を繰り返し、PTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症させたとして、男児と両親が教諭と同市を相手取って総額約5800万円の損害賠償を求めた訴訟で、福岡地裁は28日、市に220万円の支払いを命じた。野尻純夫裁判長は「体罰と差別的な発言はあったが、PTSDになったとは認められない」と述べた。
訴状などによると、教諭は03年5月、教室で「アンパンマン」「ミッキーマウス」などと称して男児のほおや耳をひっぱる体罰を加え、男児は歯が折れたり、耳を切るなどの傷害を負った。さらに、男児の曽祖父が米国人と聞いた教諭は、男児を「血が汚れている」と侮辱。「お前は生きている価値がない。早く死ね」と再三にわたって自殺を強要したとされる。
こうした「いじめ」による肉体的、精神的な苦痛から、男児は重いPTSDの症状を見せるようになり、精神科病棟で半年にわたって入院治療を受けた。現在も睡眠不足や情緒不安定などの症状が続いているという。
教諭側は「他の児童に暴力を振るったため顔を手の甲で軽くたたいたことはある」などとしたが、訴状にあるような体罰や差別発言については全面的に否認。男児の体験について客観的事実を確認しないままPTSDとした医師の診断は信用できないと主張した。
市教委は、同じクラスの児童へのアンケート調査などに基づき、男児への「いじめ」を認定したうえで03年8月に教諭を停職6カ月の懲戒処分とした。訴訟では、市教委が事実認定した範囲での責任を認め、賠償に応じる姿勢を見せていた。ただ、けがやPTSDが生じるほどの「いじめ」はなかったとしていた。
教諭は処分を受けた後に市教育センターで2年余り研修を受け、今年4月からは別の小学校で学級担任をしている。
この問題を巡っては、福岡県弁護士会「子どもの権利委員会」が中心になり、全国の弁護士に呼びかけて約550人にのぼる大弁護団を結成して訴訟に臨んだ。【木下武】
毎日新聞 2006年7月28日