6年前、顔に湿疹(しっしん)が繰り返しでき、皮膚科を受診した。担当は30代後半とおぼしき男性医師。原因を特定できなかったうえ、「気にしなければいい」と居直ってくれたので、よーく覚えている。
悔しさを思い出したのは、体の再生・再建医療を専門にする東京大の光嶋勲教授に、似た話を聞いたから。「乳がんで切った乳房を取り戻したい」「事故で失ったつめの再生を」……光嶋さんを訪ねる女性患者は、「気にするな」の一言で、他病院の男性医師に切り捨てられた人が多いという。
「見た目」の部位や大きさと、心の痛みは必ずしも比例しない。「その繊細な機微に男は疎い」と、男性である光嶋さんは申し訳なさそうに言う。私も「性差」は否定しない。でも、要はいかに患者の心に寄り添えるか、性以前のプロ意識の問題とも思える。
さて、私の湿疹は後日、別の皮膚科の女性医師を受診して、アレルギー性と判明した。以来、医者が「気にするな」と言うのは、実は患者の悩みに応えられない自分に言っているのでは、と疑っている。【國保環】
毎日新聞 2006年7月28日