05年の日本人の平均寿命は6年ぶりに前年を下回ったと厚生労働省が発表した。とは言え、女性は21年連続の1位(85.49歳)、男性も世界4位(78.53歳)と相変わらずの長寿国ぶり。不老長寿は人類長年の夢。さて、日本人はどこまで長生きできるようになるのだろう。【高橋昌紀】
◇あと20歳延びる?
2050年の日本人の平均寿命は男性は80.95歳、女性は89.22歳--。そんな予想値を02年に出したのは国立社会保障・人口問題研究所(東京都千代田区)。国勢調査のデータなどを基にした。今回のデータと比べると、45年後には男性は2.42歳、女性は3.73歳も寿命が延びる計算だ。
国連が04年に発表したリポートでは、2300年の日本人の平均寿命は女性108歳、男性104歳になると予測している。1950年から2050年までの人口リポートを基に、このまま寿命が延び続けることを想定してはじき出したという。
終戦直後と比べると、平均寿命は約30歳も延びた。同研究所情報調査分析部の石川晃第2室長は医療技術・設備の進歩や生活水準の向上が要因と説明。乳幼児や若年層の死亡率が低くなったことも長命化に寄与していると指摘する。
◇生命の限界は
では、人はどれだけ長生きができるのだろうか。国立長寿医療センター研究所(愛知県)によると、寿命の限界は120歳ほど。ただ田平武所長は「世界最高齢者がそれくらいとされており、そう推測しているが、実際の限界は分からない。ネズミなどでは寿命をつかさどる遺伝子の解析が進んでおり、人間の長命化に役立つ可能性はある」と説明する。
長寿を目指す研究も盛んだ。東京工業大学の相澤益男学長は「衰えた器官などを再生するための、『生命のプログラム』探しを続けている」と語る。生命工学の進歩によっては、平均寿命はさらに延びるかもしれない。
◇老化防止が重要
平均寿命が前年を下回ったのは、95年以降では95、98(男性のみ)、99年。厚生労働省人口動態・保健統計課の担当者は「いずれも今回同様、インフルエンザや自殺の増加が原因」と話しており、突発的要因を除けば、右肩上がりの傾向は今後も変わらないと言う。
こうした見方に異を唱えるのは女子栄養大(埼玉県坂戸市)の香川靖雄副学長だ。「日本人の寿命の長さは高額な医療費に支えられてのもの。財政破たんで医療制度が維持不能になれば、短くなりかねない」と分析。食生活の米国化で肥満が増加しており「糖尿病など生活習慣病が増え、これが平均寿命を押し下げる要因になりかねない」と香川副学長は話す。
男性79.0歳=世界1位、女性84.7歳=同2位の香港は病気予防に主眼を置いており、日本も予防医療重視に転換するよう説く。
もちろん、ただ長く生きればいいわけではない。田平所長、相澤学長はともに「平均寿命の数字だけに一喜一憂してはならない。長生きをしても、寝たきりでは問題。いかに老化を抑えるかが重要です」と話している。
毎日新聞 2006年7月28日