パロマ工業製の瞬間湯沸かし器で一酸化炭素(CO)中毒による死亡が相次いだ。酸素と同じ無味・無臭の気体だが、中毒の致死率は30%と高い。未然に防ぐ手だては?【中村牧生、江口一】
◇10年前の2.6倍
親会社のパロマが公表した事故は計27件だが、それ以外の事故もある。17日午後、東京・銀座の雑居ビル(8階建て)1階の日本料理店で、CO中毒によると見られる死者が出た。男性(30)が厨房(ちゅうぼう)内で倒れているのを両親が発見した。警視庁築地署の調べでは、1階の店内から高濃度のCOを検出。厨房の瞬間湯沸かし器の湯が出っ放しで換気扇が動いていなかった。
厚生労働省の人口動態統計によると、CO中毒による死者(自殺を含む)は04年は3938人で、10年前の約2・6倍に増えた。内藤裕史・筑波大名誉教授(中毒学)は「最近は気密性の高い家が増えた。換気せずに石油ファンヒーターや湯沸かし器を使うと、酸素が減り、不完全燃焼が起こりやすい」と説明する。
◇夏も注意
不完全燃焼ではなぜ、COが発生するのか。ガスや石油に含まれる有機物や炭は完全燃焼すると、二酸化炭素(CO2)と水(H2O)になる。だが酸素(O2)が十分にないと、CO2になれずCOが発生する。
専門家によると、体内では血液中のヘモグロビンが酸素と結びつき、体内に酸素を運ぶ役目をしている。COはこの役目を阻害する。ヘモグロビンとの結合しやすさは酸素の10分の1だが、一度結合すると酸素の2500倍離れにくくなるためだ。つまり、一度体内でCOが増えると酸素不足になり中毒症状を来す。
事故の原因は湯沸かし器ばかりではない。東京都内では昨年8月、換気扇なしで七輪や炭火おこしをしようとした焼き肉店など4軒で、CO中毒事故が起きた。今年6月には豊島区のケーキ店で8人がCO中毒の疑いで病院に運ばれた。
社団法人・日本ガス石油機器工業会の桜橋晴雄・専務理事は「ガス機器の使用中に頭痛や脱力感、目がチカチカするなどの異常を感じたら、すぐに換気してほしい。夏場の冷房は換気にはならない」と訴える。
中毒が疑われる場合について、日本ガス協会広報部は「自力で動ける軽度の場合は、新鮮な空気を吸って体を温めながら安静を。重症ならば救急車を呼ぶこと」と話す。銀座の事故では、様子を見に来た両親のうち母親が倒れて病院に運ばれた。東京消防庁は「室内で息苦しさなどの異変を感じたらそれ以上踏み込まないで」と呼びかける。
中毒事故を未然に防ぐ方法の一つがCOの検知器(センサー)だ。米国ではCO中毒事故が多発し、一部の州でセンサーの設置が法律で義務づけられている。しかし、日本では同様の法律はない。東京ガスによると、1都6県のガス使用者約880万件のうちCOセンサーを設置しているのは32.1%にとどまる。
同社はガス漏れ、CO、火災のすべてを検知できる多機能型(契約料・1カ月339円)をリース・販売している。本多一賀・センサ活用チームリーダーは「センサーが働き寝たばこによる出火に早く気づいた例もある。検知器の寿命は約5年なので定期交換しながら活用してほしい」と話している。
毎日新聞 2006年7月25日 12時27分 (最終更新時間 7月25日 13時11分)