9年前、横浜市で高齢者虐待の問題を取材したことがある。70代男性と50代の息子の2人暮らしのケースだった。父親の体にあざを見つけた訪問看護師が息子による虐待に気づき、市の福祉事務所に通報。保健師の資格を持つ女性職員が親族を集めて話し合うなど奔走する姿に共感を覚えた。
ちょうど介護保険制度導入をめぐる論議が高まっていた時期。福祉の専門家は「導入後は高齢者虐待が放置されるのでは」と心配していた。介護保険は民間事業者が主役。民間のヘルパーが虐待に気付いても「私の仕事ではない」ということになりかねないからだ。
最近、高齢者に暴言を吐くヘルパーがいるという話を福祉現場の人から聞いた。人手不足で、事業者も問題のあるヘルパーを辞めさせられないという。実家で1人暮らしをする母を思い、暗たんたる気持ちになった。
民間活力による効率化と共助(助け合い)をうたって導入された介護保険。だが、心を伴わない「共助」と、行政の「非効率」を比べたら、後者の方がましと思わざるを得ない。【行友弥】
毎日新聞 2006年7月25日 12時32分