イラン核問題で初の国連安保理決議が採択された。8月中にイランがウラン濃縮関連活動をやめないと、次の決議で経済制裁などの追加措置を取るという警告決議である。イランが国際社会との明確な対決局面に踏み込むことなく、月内の濃縮停止に応じるよう望みたい。
今回の決議は全会一致が予想されたが、ペルシャ湾岸のカタールが土壇場で反対に回った。レバノンで民間人多数を殺傷しているイスラエルを非難しないでイランには厳しい決議を突きつける。それは不公平だし、レバノン情勢に悪い影響を及ぼすというのだ。
イスラエルと戦うイスラム教シーア派の民兵組織ヒズボラ(神の党)は、イランとシリアの強い影響下にある。もともとイランの最高指導者ホメイニ師(故人)の信奉者が結成した組織であり、イスラエルに撃ち込まれるロケット弾などはイランが供給しているとの見方が強い。
イランのアフマディネジャド大統領自身、核問題とレバノン情勢を連動させる可能性を示唆している。だが、二つの問題を結びつけるのは筋違いだ。イランがヒズボラを操って戦闘激化へ導いたりすれば、イスラエルや米国は、ここぞとばかりイランとの対決姿勢を強めるだろう。これ以上中東の緊張を高めたところで、結局はイランの得にならない。
決議にはイランの友好国のロシアや中国も賛成した。欧州諸国などが粘り強くイランと交渉してきたことも忘れてはならない。決議は国連憲章第7章(平和に対する脅威への対応)の第40条(暫定措置)などに基づいてウラン濃縮停止などを求めているが、軍事行動へ道を開く条項に言及していないこともイランへの配慮の表れだ。
しかも安保理常任理事国(米英仏露中)とドイツがイランに提示した包括的見返り提案は、軽水炉建設の支援や核燃料の提供、ペルシャ湾岸の安全保障への協力などを含むとされ、イランにとって悪い条件とは思えない。
今月22日までに同提案への態度を明らかにする予定だったイランは最近、決議採択の場合は提案を検討対象としないなどと言い出した。だが、国際社会の要望に背を向けても明るい未来は望めない。イランの理性的な対応を期待したい。対応次第では、断交中の米国との対話の道も開けよう。
ブッシュ政権にとって、イランは北朝鮮と並ぶ「悪の枢軸」だ。他方、就任1年を迎える強硬派のアフマディネジャド大統領は、ホメイニ革命の原点回帰を訴え、米国やイスラエルへの強硬発言を繰り返す。米・イラン関係はレバノン情勢をめぐって、さらに悪化したように見える。
だが、米・イランの対立が続けば、ヒズボラの武装解除を含むレバノン問題の「永続的な解決」は望めない。米国も柔軟な対応が必要だ。イランやシリアは、イラク情勢にも一定の影響力を持っている。対立点はあるにせよ、これらの地域大国を封じ込めるだけでは、中東の安定は図れない。
毎日新聞 2006年8月2日