6月に前任の作家、黒井千次さんから推薦を受け、第11代理事長に就任した。任期は2年。「不測の事態ですが、粉骨砕身、努力します」
社団法人・日本文芸家協会は、菊池寛の提唱で1926年に発足。作家、詩歌人、評論家ら会員2500人を擁する職能団体である。
ひと昔前は健康保険と墓が主な関心事だった文士の世界も年々様変わりし、03年10月には協会内で著作権管理業務がスタート。入試やインターネット上の作品使用、引用と使用のあいまいさへの対応、生原稿流出問題など、一筋縄ではいかぬ課題が目白押しだ。
黒井前理事長の2期4年間、副理事長を経験。管理事業の新設など実務的手腕を発揮し、盟友を支えた。
「職能を確立して文化に寄与できたらいい。法人も人ですから、その人格を大切にしたい」と力を込める。
「内向の世代」の作家の一人。慶大在学中、故山川方夫の薫陶を受け、19歳で「三田文学」に「息子と恋人」を発表。「ある秋の出来事」「初めの愛」「故人」など私小説の伝統をくむ秀作を重ねてきた。
「結局は自分の言葉に耳を傾けています」という創作姿勢と同様、実生活でも人の声を大事にする。福沢諭吉が使った「諮詢(しじゅん)」という語を好む。「『諮る』ことは、社会に対して発言することです。知恵を出し合い、じっくりと話し合って、それをパワーにしたい」 【米本浩二】
【略歴】坂上弘(さかがみ・ひろし)さん。東京都出身。会社勤務を経て、現在は慶応義塾大学出版会社長。三田文学会理事長。「田園風景」で野間文芸賞を受賞。70歳。
毎日新聞 2006年8月2日