北朝鮮による拉致被害者、横田めぐみさんの父滋さん(73)と母早紀江さん(70)が12日の青森市での講演で、全国47都道府県で拉致問題解決を訴えたことになる。被害者の早期救出を願い、97年から続けてきた講演は1000回近くに。体調を崩したこともあったが、夫妻は「皆が応援してくれている」ことを励みに、全面解決まで続ける覚悟だ。【工藤哲】
最初の講演は、97年6月、めぐみさんが拉致された現場のある新潟市だった。「団結して拉致被害者救出を」と家族会を結成して2カ月余。当時は多くの人が「北朝鮮による拉致」について半信半疑に思っていたころだ。夫妻は、当時20年前の77年11月のめぐみさんの行方不明から、元工作員の証言で拉致されたと判明するまでを説明した。
その講演を聞いていた支援者に招かれて、東京、大阪、福岡などでめぐみさんの思い出を話し、支援団体・救う会が設立されるとそれぞれの地元に駆けつけた。機会が増えたのは、小泉純一郎首相が訪朝し、金正日(キムジョンイル)総書記が拉致を認めた02年9月以降。多い時は1日に2、3カ所はしごすることも。行く先々で「ぜひ、こちらにも」と招かれた。
入院中の少女が車椅子で駆け付けたり、90歳を超えるおばあさんが手作りのアクセサリーを贈ってくれたこともあった。子どもからお年寄りまで、我がことと思ってくれることに励まされてきたという。約束した講演は、どんなに疲れていても出かけて行く。昨年暮れには、長年の無理がたたって、体調を崩した滋さんが約2カ月間の休養を余儀なくされた。
滋さんは「全力で動いてきた。解決まで続ける」。早紀江さんは「感謝しながら続けてきたら、気が付くと全国すべてを回っていた。数え切れないほどの勇気を多くの人からいただいた」と話している。
毎日新聞 2006年8月8日