男の子、それとも女の子--。秋篠宮ご夫妻の第3子誕生への国民の期待が高まる中、宮さまは多忙な公務の合間に家畜の総合的研究に励まれている。周囲ばかりが騒がしい中、あくまで「マイペース」の姿勢を崩さない。帝王切開で紀子さまの出産が早まる可能性も出ているが、紀子さまを気遣いながらも、冷静に対応される宮さまに好感を持つのは私だけだろうか。
私が宮さまと付き合いを始めて約15年になる。初めてお会いした時、私は京都支局の記者だった。その後、東京本社社会部で宮内庁を担当するなどしたが、交際は変わらず続いている。
ご夫妻の第3子が国民から注目されるのには理由がある。皇室典範は「皇位は、皇統に属する男系の男子が、これを継承する」と定めているが、天皇の位を継ぐ男子は現在40歳の秋篠宮さまの誕生以来、絶えて久しい。
政府が、皇位の安定的な継承を目的に、女性・女系天皇を容認する皇室典範改正案の成立を目指し、その是非をめぐり国会が大きく揺れていた今年2月7日、紀子さまに懐妊の兆候があると発表された。
時期が時期だっただけに一部のマスコミは、ご夫妻が今年1月の「歌会始の儀」で詠まれたコウノトリの歌と関連付けて「あの歌は、第3子を期待するメッセージが込められたもの」「ご懐妊は計画されたものでは」などと推測した。
しかし「赤ちゃんを運んで来るというコウノトリは、日本のコウノトリとは別種なんです」。3月に宮さまは親しい友人にこう話され、一部の思惑をやんわりと否定された。そして「懐妊はあくまでも自然の賜り物」と強調されたという。
ご夫妻は昨秋、兵庫県豊岡市で開催された国の特別天然記念物・コウノトリの野生復帰を目指す放鳥式に出席された。この時の感動を宮さまは「笑み」という題で「人々が笑みを湛(たた)へて見送りしこふのとり今空に羽ばたく」と詠まれ、紀子さまも「飛びたちて大空にまふこふのとり仰ぎてをれば笑み栄えくる」と、歌にして発表された。
宮さまによると、欧州で赤ちゃんを運ぶ幸福の鳥として知られるコウノトリはシュバシコウと呼ばれ真っ赤なクチバシに特徴がある。一方、日本などに生息するコウノトリはクチバシが黒い。正式な分類ではコウノトリ目コウノトリ科キコニア属までは同じだが、シュバシコウと日本のコウノトリはまったくの別種だという。生物学者らしい否定のされ方だと私は思う。
宮さまは85年夏、初めてタイを訪問。メコンオオナマズに興味を持ったことが研究活動のスタートになった。その後、研究対象はニワトリに広がり、調査地域もインドネシア、中国などへ拡大した。
世界中のニワトリの起源はタイなどに生息する赤色野鶏(せきしょくやけい)であることを遺伝子解析などで突き止め、この研究論文が評価され、宮さまは96年に国立総合研究大学院大学から理学博士号を授与された。
私もインドネシアでのニワトリ調査に同行した。採血調査や野生のニワトリの捕獲作業に熱中する宮さまを見て、普段は目にすることのない側面を肌で感じることができた。
コウノトリの放鳥に見られる「人と自然との共生」は宮さまの目指すところの一つである。近年、宮さまは細分化された現在の学問のあり方を憂い、人と生き物や自然との多面的なかかわりを総合的にとらえようと、ユニークな活動を展開されている。
宮さまも提唱者の一人である「生き物文化誌学会」は03年春に設立。生物、民族、地理、歴史、芸術など幅広い分野の専門家や市民ら約700人が集まり、毎年、全国で活動を続けている。宮さまの研究を手伝っている東京国際交流館長の赤木攻・大阪外国語大前学長は「学際的な分野に着眼し指導されている姿勢は高く評価したい。研究者として脂が乗った年齢を迎え、今後の活躍が大いに楽しみです」と話す。
長年の研究活動を通して日本でも海外でも良い人間関係が築けたことを宮さまは喜んでいるようだ。第3子については「もう一人欲しいなという気持ちはずっと以前からございましたからね」と知人に漏らされている。最後まで母子の安産を願いながら「娘たちも喜んでいます。男の子でも女の子でも元気な赤ちゃんが生まれてきてほしい」と、親しい知人に話されているという。
来月に予定される第3子誕生。男の子であれば、ご一家はより大きな渦中に巻き込まれるだろう。その折にも、宮さまが自分流を貫き、自然体で対処されることを願っている。(編集局)
毎日新聞 2006年8月9日