東京都杉並区の東京女子大にある旧学生寮「東寮(5号館)」が来年、大学のキャンパス整備計画に伴い、取り壊される。大学が共同生活で自立した女性を育てる場と位置づけた日本初の女子個室寮で、開学6年後の1924年に「日本近代建築の父」と呼ばれた米国人建築家、アントニン・レーモンド(1888~1976)の設計で建てられた。卒業生だけでなく、建築家からも惜しむ声が上がっている。
旧東寮は、中庭付きの鉄筋コンクリート2階建てで、当初は個室(3畳)が102室あった。60年間寮だったが現在はサークル室になっている。体育館とともに来年夏から取り壊しが始まり、08年度までに跡地に新体育館棟を建設する計画だ。
同大には、レーモンドが設計した礼拝堂・講堂などが9棟あり、うち7棟が98年に国の登録有形文化財になった。旧東寮と、ともに解体予定の体育館は、整備計画があったため登録されなかった。
建築物としての評価が高く、近代建築の保存調査をする国際組織「ドコモモ」の日本支部(鈴木博之代表)は今月初め、保存の要望書を同大に提出した。藤岡洋保・東工大教授(近代建築史)も「大学の寮では日本初の鉄筋コンクリート造り。鉄筋の設計や構造などにも価値があり、近代建築史上注目すべき建物だ」と保存の必要性を訴える。
解体を知って結成された卒業生有志の会(藤原房子代表)は「寮の社会的な意味を多くの人に知ってもらいたい。取り壊しを考え直し、活用方法を大学と一緒に考えていければ」としている。
これに対して、同大は「文化財的価値の高さや寮への卒業生らの思いは十分理解している。しかし、老朽化も進み、防災上の問題などを含め、取り壊しはやむをえない。寮の存在は、記録に残していきたい」と話している。【益子香里、内藤彩子】
◇東京女子大 1918年に創立され、初代学長は新渡戸稲造。女性に大学への門戸が閉ざされていた時代に、女性の高等教育に代表的な役割を果たしてきた。卒業生には、作家の永井路子氏、堂本暁子・千葉県知事らがいる。
毎日新聞 2006年8月10日