小泉純一郎首相は28日、中央アジアを訪問しカザフスタンのナザルバエフ大統領と会談した。29日はウズベキスタンを訪れカリモフ大統領と会談する。日本の首相の中央アジア訪問は初めてだ。
中央アジアは豊富なエネルギー資源の存在で各国の関心を集めているが、米国、中国、ロシアが激しい駆け引きを繰り広げている地域でもある。ソ連の崩壊後に独立した各国はもともとロシアとの関係が深いが、中国もエネルギー資源確保の狙いから関与を強めているのが最近の特徴だ。
中露とカザフスタン、ウズベキスタンを含む中央アジア4カ国で構成する上海協力機構(SCO)はイラン、パキスタン、インドなどをオブザーバーに加え、エネルギー連合的な色彩を強めている。ユーラシア内陸部の地域協力が「閉ざされた地域連合」にならないよう誘導することが日本にとっては重要だ。
日本はカザフスタン、ウズベキスタン両国と1992年に外交関係を樹立している。カザフスタンは日本の7倍、中央アジア最大の国土を持つ。ウラン、クロムの埋蔵量は世界2位、石油も豊富だ。
カスピ海のカシャガン油田開発には日本の国際石油開発が参加している。28日の首脳会談で、ウラン鉱山開発の技術協力などで合意したことは資源外交の一環として意義がある。
ウズベキスタンは中央アジア最大の人口を有する。01年の米同時多発テロ後にアフガニスタンのタリバン政権掃討のため米国に基地を提供したが、昨年起きた反政府暴動への政府の武力鎮圧をきっかけに欧米との関係が悪化し、米軍基地を撤去した。今はロシアとの関係を強めている。
天然ガス、ウラン、金などの地下資源が豊富だが、国民の半数が1日2・15ドル未満で生活する貧困層だ。米中露の利害が複雑にぶつかり合っているが、日本が協力できる分野もある。
首脳会談で小泉首相は民主化と市場経済化の重要性を指摘し、国際社会から批判を受けている人権問題にも言及する方針という。協力関係を深めるには、言うべきことは言うという姿勢が大事だ。
経済改革支援を通じて中央アジア各国をサポートすることは、テロの温床になりやすい貧困を減らす意味でも重要だ。日本にとっては非中東産のエネルギー資源確保というメリットがある。
政府は04年に中央アジアとの関係強化を目指して「中央アジア+日本」外相会合と銘打った対話の枠組みをつくり、今年6月の第2回会合でテロ・麻薬対策や地雷除去、貧困削減などに関する行動計画を作成した。
橋本龍太郎首相が「シルクロード外交」を打ち出したのは9年も前のことだ。にもかかわらず、首相の訪問が今回が初めてというのだから動きが鈍すぎるし、退陣間際の訪問というのも本気度を疑わせる。
新しい政権は中央アジア外交に腰をすえて取り組む必要がある。
毎日新聞 2006年8月29日