世間の関心はもう次の首相だ。自民党総裁選の候補者たちがテレビで発言しているが、違いがわからない。「小泉改革」と叫んでいたのに、それぞれ「修正が必要」「公共事業も大切」と言い出した。アジア外交の打開も異口同音だ▲これだけ感情的にこじれた中国や韓国には、おいそれと握手を求められないだろう。そろってインド重視だ。目ざましい経済成長を続け、中国を追い上げるインド。ガンジー、ネルーの名前に親しみを感じる日本人は多い。インド人の対日感情もいい▲インドの富裕層の間では、高級ホテルの日本料理が人気だという。先日来日したインドの経済人は、本わさびと柿の種をおみやげに買った。本わさびは、家族から頼まれた、あこがれの貴重品。トウガラシ味の柿の種は、日本で発見した珍味。さすが辛さに敏感な食文化だ▲経済人たちは総裁候補者たちも回ったが、みなインド重視と口をそろえた。それを聞いて、こう思ったという。「日本はインドを利用して中国を抑え込みたいのかな。でも、インドにはそんなつもりはない」▲インドと中国は隣国だ。近ければ摩擦も起きる。かつてはカシミールで戦争もした。だが、近いから商品が流れ始めると一気に緊密になる。日本人の気がつかない間に、中国はインドにとって3番目の重要な貿易相手国となった。日本とインドの貿易額は5000億円。かたや中国とインドの貿易額は2倍の1兆円にのぼる▲シッキムの領有権争いが決着し、国境貿易も始まった。インド人も中国人も大国意識が強いから張り合うだろうが、その一方で利益も共有している。必ず対立すると思いこむのは甘い。インド重視のかけ声だけでピリッとした戦略がなければ、インド人は関心を持たない。
毎日新聞 2006年8月30日