「国内立候補都市は東京都に決まりました」。日本オリンピック委員会(JOC)の竹田恒和会長(選定委員長)が告げた瞬間、東京都の関係者席がどよめいた。しかし、予想された結果との思いを示すかのように、拍手もすぐに収まった。
会見した石原慎太郎都知事は「ほっとしてますよ、そりゃ。こんなに選挙でハラハラしたのは久しぶりだ」。ただ11票差には「だいぶ票読みと違った」と不満げだった。
招致レースを振り返って、石原知事は「東京が勝ったのは現実性がものを言ったから。絵に描いた餅では仕方ない。うたい文句はいくらでも言える」と、福岡の計画をなお痛烈に批判した。
会見会場と同じフロアの東京都控室では、都議会招致議連の都議らが歓声を上げた。山崎孝明議連会長は「感激の一言。財政力など東京の都市力が福岡に比べはるかに高かった」と分析した。
別室の「ご苦労さん会」。一部競技団体から「東京は態度が大きい」と指摘されただけに、横山洋吉副知事は「明日から腰を45度に折って頑張ります」と誓ってみせた。
一方、敗れた福岡市。市職員らが黄色いTシャツ姿で「よろしくお願いします」と選定委員に呼び掛けるなど会場でも最後のお願いを続けたが、実らなかった。
山崎広太郎市長は「中央対地方の問題は解決していない。東京と戦うのは大変だと痛感した」と、淡々と述べた。票差については「善戦との評価もあるが、まだ分析していない」。メーン会場予定地だった須崎ふ頭の再開発については、計画を見直す意向を示した。
投票前のプレゼンテーション。東京都は、石原知事が財政力と都市機能の充実を改めて強調し、萩本欽一さんら著名人が東京開催を訴えた。
一方、福岡市は、プロ野球ソフトバンクの王貞治監督が入院前に撮ったビデオメッセージを寄せた。さらに在日韓国人2世の姜尚中・東京大教授が「東京は大阪の二の舞になる。金持ちによる金持ちのための大会で、世界に勝てますか」と批判。これを石原知事が「外国人がわけのわからないことを言っている」と攻撃するなど、互いの批判は止まらなかった。
行政主導で進められてきた東京都の招致活動。課題は山積している。先月の「都民集会」には約2000人が参加したが、9割近くが関係団体と都議による動員で、一般の関心は低いままだ。
五輪招致をてこに環状道路整備を一気に進めようとする都の姿勢には7月以降、市民団体が反対の声を上げ始めている。
都五輪招致本部は「国内候補地に決まったら、都民の機運盛り上げにも取り組む」としてきたが、同本部のある職員は「これからもいばらの道が続く」と漏らした。
毎日新聞 2006年8月31日