福岡市と東京都で争った2016年夏季五輪の国内候補都市が東京に決まった。1988年五輪での名古屋、08年五輪の大阪と、日本は夏季五輪の招致で2連敗している。首都・東京で連敗を止めることが出来るか。
今回の五輪招致のスタートは04年のアテネ五輪後だ。過去最多の37個のメダルを獲得して自信を強めた日本オリンピック委員会(JOC)が、さらなるスポーツの振興と競技力強化のため夏季大会の招致を主要都市に呼びかけた。
五輪という巨大イベントの誘致は、単なるスポーツ大会開催の域にとどまらない。64年の東京五輪では東海道新幹線の開業や首都高速道路が整備されるなど、現在の都市の骨格を形作った。東京都が2度目の開催に名乗りを上げたのも、前回五輪から四十数年を経て、首都高などインフラの耐用年数が限界に来ており、再び都市改造を迫られた事情があった。
JOC内部には、「連敗を止めるには首都・東京しかない」というムードが早い段階からあった。12年大会はパリ、ニューヨークなど世界の主要都市が争った末、ロンドンに決まった。大都市でなければ最終選考に残れないという風潮は、五輪の肥大化に伴う現実問題として理解できなくはない。
だが、五大陸をあしらった五輪運動のシンボルマークが指し示す精神からすれば、150万都市福岡市での五輪開催は、まだ五輪を開いていない南アメリカ、アフリカでの開催に道を開く期待がこめられていたのも確かだ。残念な思いも残る。
16年五輪の開催地は09年の国際オリンピック委員会(IOC)総会で決まる。立候補締め切りは来年7月だ。南米初の五輪を目指すブラジルのリオデジャネイロ、前回に続いての挑戦となるマドリードなどが立候補の意向を示している。96年アトランタ五輪以降、夏季大会を開いていない米国もサンフランシスコ、ロサンゼルス、シカゴの3都市に絞り込み、来年3月までに一本化する。
いずれも東京の強力なライバルとなる。08年の北京五輪から8年後、再びアジアでの開催をIOC委員が選択するかどうか。情勢は楽観できる要素が乏しいことも覚悟せずにはいられない。
国内では「お山の大将」の東京の開催計画が財政力の差で地方都市・福岡に貫禄勝ちしたが、世界で通用するだろうか。
石原慎太郎都知事は昨年8月、「改めて日本という成熟した国家社会の存在をアピールすることは、国家にとって大切」と五輪立候補の意義を強調した。日本の成熟ぶりをアピールする機会はいくらでもある。なぜ「東京で五輪」なのか、世界が納得する理念を打ち出さないことには、IOC委員を説得することはできないし、世界のスポーツマンの理解を得ることも難しいだろう。
開催地決定まで3年。日本中の知恵を絞り、世界の人々に「ぜひとも東京で五輪を開きたい」と思わせる中身の濃いプランを作り上げなくてはならない。
毎日新聞 2006年8月31日