憂楽帳:命の重さ
一昨年末に起きたインド洋大津波のタイでの死者は、発見された遺体の数から5395人とされている。このうち日本人の犠牲者29人は1人を除いて身元が確認された。日本大使館が粘り強くタイ政府当局に働きかけ、身元確認作業を支援した成果だ。
対照的な国がある。多くの出稼ぎミャンマー人が津波に巻き込まれたと推定されているが、死者・行方不明者の数さえまったく分からない。大半の遺体が帰国もかなわず無縁仏として葬られている。軍事政権が自国民保護に何の手も打たなかった結果である。
ある国の国民であれば、外国で死んだ後のフォローまできちんとしてくれる。別の国の国民ならば死んでも放置されたままだ。人の命の重みは国によってこうも格差があるのだろうか。
同じことは、イラク戦争の時にも考えさせられた。米兵の死者は逐一、ひとケタまで発表されたが、イラク人の犠牲者数はいまだによく分からない。国際社会の現実なのかもしれないが、あまりにも大きな不平等は人の心を落ち着かなくさせる。【藤田悟】
毎日新聞 2006年8月31日