防災:非常食、意外に美味 温かく、種類もいろいろ
災害への重要な備えの一つは食料の備蓄だ。かつては乾パンが定番だったが、近年は普段の食事にも使えそうなバラエティーに富んだ商品が続々と登場している。「防災の日」(9月1日)を前に、非常食を食べてみた。【五味香織】
◇アルファ米
乾パンに代わって非常食の主流になりつつあるのが、湯や水で戻して食べるアルファ米だ。戦時中にアルファ米を製品化したという尾西食品(東京都港区)は、五目ご飯など8種類の商品をそろえる。袋がそのまま食器として使え、レンゲも同封されている。
湯を注いで20~30分待つと、普段の食事にもよさそうな出来栄え。ただし、早めに開封してしまうと、芯(しん)が残ったような感じになる場合も。冷水で戻す場合は、湯の倍以上の時間がかかるが、意外なほど見た目も味もよい。湯や水の温度に応じた時間の調節が、おいしさのカギだ。
防災用品の卸・販売会社「相日防災」(神奈川県小田原市)の防災アドバイザー、尾崎秀一さんは「熱湯だと扱いにくく、お茶を飲むぐらいの温度で作るとよい」と話す。
「まつや」(新潟市)の「ライスるん」は、米をフレーク状にしてあり、湯や水を加えて混ぜるだけで食べられる。ほのかに米の香りが漂い、高齢者や子どもが食べやすいゲル状で、水の量を増やせば流動食になる。
パンの缶詰は、見た目も食感も市販のパンと変わらない。水に浸すだけで食べられる乾燥もちは、腹持ちがよさそうだが、もち同士がくっつきやすく、食べ方に工夫が必要だった。
◇やけど注意
「温かい食事を」というニーズに応える非常食も登場した。
缶詰の製造販売を手がけるホリカフーズ(新潟県魚沼市)は、約5年前から非常食「レスキューフーズ」を販売する。くり五目ご飯やおかゆ、スープなどの入った袋や缶を、さらに大きな袋に入れた商品。大きな袋に入っている発熱剤に同封の食塩水を注ぐと、20分ほど加熱する仕組みだ。
温かい食事を食べるとほっとするが、缶は素手では触れないほど熱くなるので、軍手のようなものがあると便利。同社特販部の星野敏彦さんは「やけどに注意して」と呼びかける。
95年の阪神大震災で被災者から「温かいものが食べたかった」という声が上がったことを受け、開発に着手。加熱する袋の形を工夫するなど、商品化に数年かかった。被災地では飲み水が貴重なため、のどが渇き過ぎないよう味付けは薄めにした。04年の新潟県中越地震では、在庫の商品を地元で配って喜ばれたという。
試食した非常食の賞味期限は、おおむね3~5年。最後に、特殊フィルターで不純物を取り除き、5年間保存できるペットボトル入りの水を飲んでみた。賞味期限直前と、製造間もない商品を飲み比べたが、違いはほとんど感じなかった。
◇日常に近く
奥田和子・甲南女子大教授(食デザイン論)は「非常食」に代えて「災害食」という言葉を使うことを提案する。
避難所は自由に動きにくいうえ、健康を害しやすい環境にある。健康管理などの面から、「とにかく食べられればいい」という非常食を、できるだけ日常に近い食事へ変えていくことが望ましいからだ。奥田教授は「不足するのは野菜。行政の備蓄食料や救援物資は米やパンなどの主食が中心で、おかずも缶詰の肉や魚が大半。煮物など野菜を使った缶詰を日常のおかずとして利用しながら備えるなど、災害食を日常の延長としてとらえてほしい」とアドバイスする。
毎日新聞 2006年8月31日