「原爆の日」がまた巡ってきた。きょう6日は広島で、9日は長崎で、人々は深く静かに平和を祈る。
原爆投下から61年。被爆者は高齢化し、実体験を伝えるための時間は刻一刻と短くなっていく。広島市教委は今年から8月6日を平和登校日とするよう小中学校に呼びかけた。未来を担う世代が被爆体験を聞き、戦争の愚かしさを語り合うことの意義は大きい。
残り時間の少なさを国も真剣に受け止めなければならない。95年に被爆者援護法が施行されたが、原爆症の認定には依然として厳しい関門がある。被爆者たちが全国で原爆症認定を求め集団訴訟を起こしている目的の一つは、国に責任があることを認めさせ、その償いをさせることである。
5月の大阪地裁に次いで今月4日には広島地裁でも原告勝訴の判決が出た。原爆被害を幅広くとらえようという司法判断が定着したといっていい。国はその流れを受け入れ、被爆者の生活と健康を確保する方策を直ちに実行に移すべきだ。それが被爆国・日本の世界に示す姿勢である。
広島市の平和記念式典で市長が読み上げる平和宣言に、初めて「原水爆禁止」がうたわれたのは56年。日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)が結成された年でもある。被爆地から核兵器廃絶を求める声を発信し続けて半世紀が経過した。
しかし、核軍縮は遅々として進まない。むしろ、核拡散が加速し、新たに核クラブの仲間入りをする国も増えている。
米国が「テロ支援国家」と名指しするイランの核開発問題は決着がついていない。イランがイスラム過激派・ヒズボラに影響力を持つだけに、イスラエルとヒズボラ間で起きている戦闘の拡大も憂慮される。
北朝鮮は昨年、核保有を宣言して、核兵器の運搬手段となり得る弾道ミサイル発射を強行した。これに対して日本の先制攻撃を唱える論調も出ている。危険な状況はますます増大している。
10年前の96年7月、国際司法裁判所は「核兵器の使用・威嚇は一般的に国際法違反」との勧告的意見を出した。
勧告には、すべての国に核軍縮に向けての義務があるとうたわれていた。しかし、今年の広島平和宣言は、いまだに核兵器が廃絶されていないと指摘する。どの国も市民も勧告を真剣に受け取らなかったという嘆きは深い。
世界の都市で作る平和市長会議が03年に発表した「核兵器廃絶のための緊急行動」は、2020年までの核兵器廃絶が目標だ。今年の平和宣言は緊急行動第2期の出発点として、核軍縮への誠実な取り組みを全世界の国に求めるキャンペーンの開始を表明する。
地球上で増殖し続ける核の脅威に立ち向かうため、今が被爆者の悲痛な思いに応える最後の機会であることを認識しなければならない。そのうえで、一人一人が一歩ずつ、自分にできる行動を起こそうではないか。
毎日新聞 2006年8月6日