イスラエル軍の激しい空爆が続くレバノン南部。多くの人が比較的安全な北部へ逃げる中で、イスラエル軍が5日に“空爆予告”のビラをまいた南部の都市サイダ郊外では「もう逃げるのは嫌だ」と自宅に残っている人々がいた。【ワディバンウーデン(レバノン南部)で澤田克己】
「イスラエル軍が『サイダから出て行け』というビラをまいたらしい」
5日午後、サイダの東約8キロの小さな村ワディバンウーデン。庭に出したプラスチック製いすに腰かけたターニョス・ハンナさん(70)に、テレビニュースを見た妻ワダートさん(64)が不安げに声をかけた。住民への退去勧告は、事実上の空爆予告だ。
村では、先月12日に武力衝突が始まって以来、イスラエル軍機の爆音が一日中聞こえる日が続いている。村を通る幹線道路を数キロ内陸へ向かうと、82年のイスラエル軍侵攻で破壊された病院や団地がそのまま放置されている。この一帯は、イスラエル軍に00年まで占領されていた。
ワダートさんは「怖いから私は逃げたいんだけど、夫が『残る』と言ってるから」と小さな声で話した。ターニョスさんが「レバノン国内には安全な所なんてないさ。だから、ここに残るんだ」と続けた。2人の子供は結婚してベイルートに住んでいるが、ターニョスさん夫妻は、足に障害がある二男のジョージさん(34)と3人で村に残っている。
近所に住むナメ・アイードさん(51)は、妻(41)と3人の子供たちと一緒に、避難していたベイルートから10日ほど前に戻ってきた。
「ここでは空爆の音がよく聞こえる。大きな音を聞いていると、すぐ近くに爆弾が落ちてくるんじゃないかと生きた心地がしないよ。イスラエル軍は何をするか分からないから心配だ。でも、ベイルートに家はないし、仕方ないよ」
ガソリン切れで休業中のガソリンスタンドで、居残っている近所の人たちと情報交換していたアイードさんは、静かな口調だった。
毎日新聞 2006年8月7日