都内の停電により鉄道のダイヤが乱れ、混雑するJR東京駅=14日午前9時51分、竹内幹写す
送電線にぶつかったと見られるクレーンを調べる東京消防庁の職員ら=千葉県浦安市富士見で14日午前10時39分、平田明浩写す
14日午前7時40分ごろ、千葉県浦安市と東京都江戸川区の都県境を流れる旧江戸川で、クレーン船が、地上約16メートルにある東京電力の送電線に接触し、損傷させた。このため、東京都や千葉県浦安市、横浜市の一部などの約80万世帯が停電した。変電所に送電を受けられなくなった東京メトロや東急電鉄などで運転を中止。都内で260カ所の信号機が使えなくなり、エレベーターが停止するなど、交通や生活に大きな影響が出た。停電は同10時44分に全面復旧した。
今回の事故は、99年11月22日に埼玉県狭山市の入間川河川敷に自衛隊機が墜落し、送電線を切断した事故以来の被害。99年でも首都圏を中心に約80万世帯が停電した。
東京電力などによると、損傷を受けた送電線は、千葉県内の火力発電所発生の電力を、首都圏では千葉県市川市、浦安市、東京都、横浜市北部などに送っていた。電圧27万5000ボルトの電流が流れているという。
現場は、江戸川区南葛西と浦安市富士見の間を流れる旧江戸川。川を渡るように1系統3本の高圧線が2系統通っていた。
千葉県警浦安署によると、クレーンを積んだ船は同県船橋市栄町2、三国屋建設千葉事務所の380トンの作業船。浦安市発注の旧江戸川の「堀江の船だまり」付近のしゅんせつ工事のため、船橋港を出港。タグボートと同川にいた。送電線に接触したクレーンは高さ約33メートルで、約75度の角度で立っていたという。両船には当時、計3人が乗船していたが、けが人はなかった。乗船者の1人は「クレーンを上げた時に送電線には気づかなかった」と話している。
千葉県警や東京消防庁、東京電力などが事故原因を調べている。
この事故で鉄道各社は、変電所に東電からの送電を受けられなくなり、次々に運行を停止した。
東京メトロでは銀座線と半蔵門線、東西線、日比谷線の計4線で一時的に運転を見合わせた。約10万3000人に影響が出た。この他、東急電鉄でも田園都市線と大井町線などで運行できなくなり、約13万4000人に影響した。また東京臨海部を走る新交通システム「ゆりかもめ」では、港区のレインボーブリッジ上で電車が止まったため、乗客が誘導路をつたって近くの駅まで歩いた。JR京葉線も一時運休し、約1万9000人に影響した。
都内では、262カ所の信号機が停電の影響で使えなくなり、警察署員が出動して交通整理を行ったが、午前9時半までに大半が復旧した。大きな事故は起きていないという。
東京消防庁に入った連絡によると、停電によるエレベーター内の閉じこめ事故は計58件。午前10時半までにすべて復旧し、けが人はなかった。総務省消防庁によると、浦安市で7件、市川市で4件、川崎市で2件の計13件あった。
■エレベーター 首都圏で数万台のエレベーターを管理するビル管理会社「三菱電機ビルテクノサービス」によると、東京都内を中心に約900台のエレベーターが止まるなどのトラブルがあった。このうち、約20台で内部に人が閉じこめられたとみられる。同社の広報担当者は「通電して復旧しているものも多いと思うが、作業員が1台ずつ確認に回っている」と話した。
また、「日立ビルシステム」で管理する都内や横浜市内のビルやマンションでも、三十数台のエレベーターで閉じこめがあった。午前10時までにすべて復旧し、けが人はいないとみられる。
東京消防庁のまとめでは、午前7時40分すぎに東京渋谷区道玄坂と新宿区北新宿のビルでエレベーターが停止し、利用者が閉じ込められた。道玄坂では女性1人が救急隊に無事救出され、北新宿では男性(57)と女性(75)が自力で脱出して無事だった。
川崎市多摩区西生田のマンションでは、2階に住む男性会社員(40)が、エレベーター内に約1時間閉じ込められた。緊急用インターホンで連絡を受けたエレベーター会社社員が救出、男性にけがはなかった。
千葉県市川市消防局などによると、市川市で4件、浦安市で2件、マンションのエレベーター内に閉じ込められたなどと通報があったが、けが人はなかった。
◇ATM停止
■銀 行
大手銀行では停電した東京都内と千葉県内の一部の支店で営業開始時間が遅れたり、ATM(現金自動受払機)が一時動かなくなり、現金の出し入れが出来なくなった。午前10時現在、各行のATMは復旧し、支店も通常通り営業している。
住友信託銀行東京中央支店(東京都中央区)は停電のため、コンピューターなどが動かず、通常午前9時の営業開始時間を55分遅らせた。りそな銀行はATM8カ所が一時停止。三菱東京UFJ銀行は対策本部を設置し、ATMや支店の稼働状況を調べている。三井住友銀行、みずほ銀も調査中としている。
一方、日銀(東京都中央区)は停電直後から自家発電装置に切り替えたため、銀行との間で資金や国債の決済をオンライン処理する「日本銀行金融ネットワークシステム(日銀ネット)」は正常に稼働し、業務に支障は出ていない。
■信号機
都心で営業していたタクシー運転手によると、交差点の信号機がところどころで消え、警察官が交通整理をしていたという。しかし、警察官の姿がないままの交差点もあって、渋滞が相次いだという。運転手は「お盆休みで普段より交通量は少なかったが、それでもよく事故が起きなかったものだ」と振り返った。
地下鉄の駅近くのバス停やタクシー乗り場には、通勤途中の会社員らが列を作った。50人以上並んだタクシー待ちの列を見て、汗びっしょりになって歩き始める会社員の姿も見られた。午前9時過ぎに地下鉄が相次いで復旧し始めると、バス停やタクシー乗り場は普段の様子に戻った。
■コンビニ コンビニエンスストア最大手のセブン-イレブン・ジャパンでは、午前7時半から8時ぐらいの間に、東京都内や千葉県浦安市の店舗約200店で一時、店内が停電した。しかし、既に明るい時間だったことやレジなどは非常用電源で稼働するため、「お客さんへの混乱はなかった」(同社広報センター)という。
ローソンでは、同8時過ぎから都内や川崎市など約30店で商品の発注などに使用するコンピューターの電源が切れたが、すぐに復旧し営業には影響はなかった。
大手スーパー、イトーヨーカ堂でも午前8時前後に都内と浦安市の計5店舗で一時停電したが、同10時の開店前には復旧し、営業に影響は出ていない。【宇田川恵】
◇海外通信社も速報
首都圏の停電について、海外メディアも速報した。ロイター通信は、月曜日早朝の通勤時間帯に東京を襲い、中には人がエスカレーターに閉じ込められたり、交通網が混乱したなどと報じた。