医薬品審査などを行う独立行政法人「医薬品医療機器総合機構」による企業OBの採用問題で、同機構が04年4月の設立以降、営利企業から、さらに5人のOBを雇用していたことが分かった。既に判明していた9人については、雇用の事実を外部の識者らで組織する「運営評議会」に報告していたが、新たに判明した5人は「民間時代と関係の無い仕事に就いている」として未報告のままだった。安全審査に強大な権限を持つ機構の不透明な運用ぶりが一層鮮明になった。
機構は、直近5年間に企業で研究開発を行った人物の場合、採用後2年間、新薬審査業務などへの関与を禁じている。新たに判明した5人について、機構は取材に対し「この規定に禁じられていない雇用」とだけ説明。出身企業の業種など、人数以外の一切の情報を明らかにしていない。
既に判明していた9人を運営評議会に報告していたのは、一定の分野で同僚とともに勤務するなど、特定の条件を満たせば、規定に反する就業を許可する代わりに、運営評議会への報告を義務づける例外規定があるため。これについても、どの企業の、どの医薬品を審査したかを伏せるなど、不十分な情報しか伝えていなかったことが既に明らかになっている。
毎日新聞の取材で初めて5人の存在を知った運営評議会メンバーで、全国薬害被害者団体連絡協議会代表世話人の花井十伍さん(44)は「驚いた。なぜ報告しなかったか機構に指摘していく」と話した。【小林直、堀文彦】
▽医薬品医療機器総合機構・業務調整課の話 5人は規定に基づき適切に配置されており、問題はないと考えている。
◆ぜい弱なファイアーウオール
新たに5人の企業OBが雇用されていた実態は、企業とその製品を審査する「医薬品医療機器総合機構」との間に必要なファイアーウオール(業務の隔壁)が、ぜい弱であることを改めて印象づけた。内部チェック機関の運営評議会にさえ未報告だったという点は、9人の雇用よりも事態がさらに深刻で、早急に全雇用を報告するシステムに変更すべきだ。
「9人」と「5人」で報告、未報告が分かれたのは、前職と密接に関連する就労の場合にのみ報告義務が生じる内部規定によるものだ。「密接」かどうかの判断は機構に委ねられ、5人はノーチェックのままの、言わば“極秘雇用”となった。こうした事態を防止するため、雇用してから評議会に報告する現行システムを改め、評議会の承諾を得てから採用する方式に変更すべきだろう。【堀文彦】
毎日新聞 2006年9月5日