憲法改正が集団的自衛権行使の問題とからめて総裁選のテーマになっている。安倍晋三、谷垣禎一、麻生太郎の3候補とも改正の必要性では一致しているが、取り組み姿勢の違いははっきりしている。
最も積極的な安倍氏は、政権構想で「あらたな時代を切り開く日本にふさわしい憲法の制定」を掲げ、「戦後レジームから、新たな船出を」と訴えている。
これに比べ、谷垣氏は「国民合意が非常に大事だ」と抑制的だ。麻生氏は谷垣氏より前向きだが、教育基本法改正を優先させるべきだ、と現実的な考えを示している。
自主憲法制定は保守合同で自民党が結成されて以来の党是だ。戦後60年を機に党内の改憲論議は一時高まりを見せたが、最近は下火になっている。小泉純一郎首相が積極的でなかったことや、イラクへの陸上自衛隊派遣が終了したことなどが影響しているのだろう。
憲法改正の発議には衆参各院の3分の2の賛成が必要だ。与野党接近の参院の現状を考えれば、民主党との合意なしでは発議も出来ない。加えて、改正の前提となる国民投票法についてさえ民主党との調整がついていない。ハードルの高さは変わっていない。安倍氏も「5年近くのスパンも考えなければならない」と語っている。
安倍氏の政権構想や討論会発言などを踏まえると、「新しい憲法」を強調する裏に、日米同盟をより有効に機能させるため集団的自衛権行使に関する憲法9条と政府解釈の制約を緩めたいという狙いがうかがえる。憲法改正を待っているわけにはいかない、ということなのだろう。
集団的自衛権について政府は、国際法上権利を有しているが行使は憲法上許されない、との立場だ。9条で許される自衛権の行使は日本防衛のための必要最小限の範囲にとどめるべきだとの判断に基づいている。
安倍氏は11日の討論会で、公海上での日米共同シーレーン・パトロールの際、米艦船が攻撃された場合を例に挙げ、「日本は手出しができないという解釈があるが、集団的自衛権の行使に当たるのかどうか研究してみることもいけないのか」と疑問を呈した。
集団的自衛権行使の限界について具体的ケースに沿って研究しようという問題提起は意味がある。前のめりでない、冷静な検討を求めたい。
しかし、その前にも出来ることはある。日米政府が確認した「21世紀の同盟」関係の中で日本はどこまで安保条約上の義務を果たすべきなのか、自衛隊はどこまで出ていくべきなのかについて、自身の考えをまず示すことだ。
安倍氏はまた、自民党が昨年11月に発表した新憲法草案の前文を書き直したいとの意向ももらしている。前文は目指すべき国の姿を総論として規定するものだ。「戦後レジームからの船出」を前文でどう位置づけようとしているのかも語ってほしい。
毎日新聞 2006年9月13日