民主党の代表選挙が12日、告示され、小沢一郎代表の無投票再選が確定した。
対立候補が一人も出馬せず、党内の政策論争の機会が失われたのは残念だ。だが、一大決戦となる来夏の参院選を控え、既に自民党から「小沢氏は手ごわい」と警戒感が広がっているのも確かだ。自民党総裁選の候補者からは「小沢氏は古い永田町の代表選手」と酷評する声が出ている。この「古い」との批判にどう応えるか、小沢氏の課題はまずそこにあるのではなかろうか。
「政権交代こそ最大の改革」という小沢氏の念頭にあるのは、一にも二にも参院選だろう。今回、発表した基本政策にもそれは如実に表れている。貫かれているのは「小泉政治」からの転換であり、新首相就任が確実視されている自民党の安倍晋三官房長官との対決色だ。改革の急進性を競い合い、結果的に自民党との違いが見えにくくなっていた従来の路線と決別したということでもある。
冒頭に教育問題を掲げたのは、安倍氏が「教育再生」をアピールしているのを意識したからだろう。高校までの義務教育化や就学年齢を5歳に引き下げることなどを思い切って掲げている。
続くのが格差是正だ。小沢氏は「小泉政権下でセーフティーネットが作られないまま、規制緩和など自由な要素を強調したことが格差問題につながっている」と語り、「正規雇用を推進する」「非管理職の勤労者は終身雇用を原則とする」と唱えている。
政治がどこまで関与できるか限界はあろうが、問題の本質はバブル崩壊後続いた企業のリストラで生じた正社員、非正社員の格差にあるとの指摘は間違っていない。
国会議員と地域、官僚組織との利権の温床になると言われて久しい個別補助金の廃止も提案している。これも自民党政権が踏み切れないでいる課題である。
ただ、懸念材料も少なからずある。例えば農業政策だ。政府が大規模農家に限定した所得補償を打ち出しているのに対し、小沢氏は対象を中小農家にも広げている。参院選は農村部も多い「1人区」が勝敗の決め手となるというのだろう。だが、「かつてのバラマキ政治に戻るのか」という批判は当然出てくる。なぜ今の時代に必要なのかの説明が一段と必要だ。
一方、安保問題に関しては、党内の対立を恐れてか、持論である自衛隊とは別組織としてつくる「国連待機部隊」構想などは今回は触れなかった。しかし、憲法改正問題も含め、「肝心なところで民主党はバラバラだ」と国民も見ている。当面は棚上げしても、いずれ、党内をまとめなくてはならない時は来る。
マニフェストの時代。参院選では、年金の一元化をはじめ政策が実現可能かどうか、具体性も問われる。25日の党大会までには、まだ日がある。小沢氏の基本政策をたたき台に、オープンな場で、全国会議員で政策論議を何時間も続けたらどうか。党をあげて、政策を肉付けしていくことが必要だ。
毎日新聞 2006年9月13日