自民党総裁選で安倍晋三官房長官の勝利が確実なせいもあり、政権の性格づけを左右する党三役、主要閣僚人事の予測で党内はかまびすしい。特に焦点の幹事長人事は、安倍氏と同じ森派出身の中川秀直政調会長の起用で調整が進む展開となった。「小泉流」を意識してか、派閥推薦を拒み人事にのぞむ構えの安倍氏。派閥のバランスを重視する「総・幹分離」論を否定する形で、党内の地ならしが静かに進んでいる。
12日夜、東京タワーにほど近い東京・芝の日本料理店。森派会長の森喜朗前首相は、69年初当選同期である民主党の小沢一郎代表、羽田孜元首相、渡部恒三国対委員長、国民新党の綿貫民輔代表と会食した。小沢氏は民主党代表選でこの日午後、無投票再選を決めたばかりだった。
来る臨時国会や来夏の参院選で「安倍政権」の強敵となる顔ぶれだが、森氏にとっては気の置けない同期生。小沢氏ら4人が自民党時代に所属した旧竹下派の流れをくむ津島派の衰退と対照的に、森派は今回の安倍氏で事実上3代連続で自派政権をものにする。森氏の舌は滑らかだった。
「安倍君が若い者(世代の政治家)だけで政権を運営すれば、途中で立ち往生してしまう可能性がある。そうならないため総合戦略が必要だ」
総合戦略とは「党内の老壮青のバランスが取れた挙党態勢」を意味し、その象徴は言うまでもなく幹事長人事。小泉政権時代、党側で構造改革路線を推進した中川政調会長を念頭に置いた発言と受け止められた。
今回、中川氏は「反小泉・非安倍」色が当初濃かった古賀誠元幹事長らを安倍氏支持に転じさせ、「雪崩」現象をもたらすことに一役買った。森氏側近であるうえ小泉純一郎首相からも信頼され、「安倍政権」誕生を支える両実力者に近い。しかも公明党の藤井富雄最高顧問や創価学会の秋谷栄之助会長らとパイプがある。安倍氏に加え、首相が9日に外遊先で「総・幹分離」にこだわらない考えを示したことも、中川氏起用へ党内の抵抗感を和らげる地ならしとみられた。
当の中川氏。12日、民主党の「政策検証チーム」を党政調会に発足させた。小沢氏の自民党時代も含めた言動を検証し、論戦に活用する狙いで、同日夜、周辺に「徹底的にやる。後1週間でまとめるから期待してほしい」と自信をのぞかせた。13日、記者団に「安倍さんと話しているのは政策の話」とだけ、語った。
一方、中川氏が浮上したことで、処遇が注目されるのは麻生太郎外相だ。総裁選に出馬した麻生氏だがもともと安倍氏と政策的にも主張は近く、討論会などでは「参院選に勝ち抜かねば政策をいくら掲げても実行できない」と選挙対策の重要さを強調。幹事長ポストへの意欲をにじませていた。外相再任との見方も党内には出ている。
毎日新聞 2006年9月14日