安倍晋三官房長官が描く首相官邸機能強化策は、米ホワイトハウスを強く意識した「官邸改造計画」と言える。憲法改正や日米同盟強化を掲げる安倍氏は、足元の基盤強化が不可欠との考えもあるようだが、思い通りの体制が整うのは早くても来年夏の参院選後。参院選の結果次第では構想倒れになりかねない。
「安倍流」の官邸強化策には、米国の影響が色濃く表れている。例えば日本版NSC(国家安全保障会議)。同氏に近い自民党議員は「安倍さんは昨年の訪米時、米国側からNSCの説明を受けて『さすがだな』と感心していた」という。
官庁幹部に政治任用を拡大するのも米国式だ。自民党のシンクタンク関係者は「米国では大統領が代わると2000~3000人の官僚が一度に交代する」と強調。政治主導を確立するには、官僚も首相が直接任用することが欠かせないとの認識を示した。
小泉純一郎首相は、高い支持率と側近らの政治力で、省庁に対する求心力を保った。しかし、「省庁の情報は役所内でとどまり、官邸へはなかなか流れない」(自民党幹部)実態はなお残る。安倍氏には、新システムを構築して官邸への情報の流れを太くしたいとの狙いもあるようだ。
ただし、こうした官邸強化策には、さまざまな「法の壁」があり、政権発足と同時に新体制に移行できるわけではない。機能強化された官邸が「本格的な安倍政権」の姿だとすれば、当座は仮の姿でスタートせざるを得ないのが実情だ。NSCにしても「安全保障担当相を置いて担当させればいい」(安倍氏周辺)などの案はあるものの、肉付けはこれからだ。
また、内閣広報官を前面に出す構想は、内閣のスポークスマンを官房長官から広報官に代える布石とも言える。政権の仕切り役でもある官邸ナンバー2の官房長官が表に出ないようになると、政権の密室性が高まりかねない。【三岡昭博】
毎日新聞 2006年9月14日