名古屋市港区の産婦人科で00年8月、同市中川区の主婦(当時31歳)が出産直後に死亡した事故を巡り、主婦の夫と長男が担当医らを相手取り、総額約1億2700万円の損害賠償を求めた訴訟で、名古屋地裁は14日、担当医に計7700万円の支払いを命じた。加藤幸雄裁判長は「被告の個人診療所は(出産時の)大量出血に対する必要な体制が整っておらず、高次医療機関への搬送を決断すべき注意義務に違反した」などと述べた。
今回の事故で、担当医の桑山知之被告(48)は業務上過失致死の罪で起訴され、同地裁で刑事裁判の審理が続いている。同被告は「十分な診察をした」と無罪を主張しているが、今回の判決は民事上の被告の過失が一部認定された格好だ。
加藤裁判長は「桑山医師は(主婦の)出血量が1リットルを前後であったと認識することが十分可能」と指摘。「出血原因の特定と止血を平行して1人の医師で行うことは困難」と述べ、高次医療機関に搬送しなかったことと主婦の死亡との因果関係を認めた。一方、司法解剖で確認したとされていた子宮頚(けい)管の裂傷については「裂傷があったと認める証拠はない」と認定した。
判決などによると、主婦は00年8月31日午後3時半ごろ、男児を出産。直後から大量出血し、同日午後10時過ぎ、出血性ショックで死亡した。死因を不審に思った夫が葬儀屋に依頼し、妻の遺体を冷凍保存、死亡の6日後に愛知県警港署に届けた。司法解剖の結果、子宮頚管に裂傷があることが判明した。
桑山被告は01年11月に書類送検され、一度は容疑を認めたことから、名古屋区検は03年8月、略式起訴し、同被告は罰金50万円の略式命令を受けた。これに対し、被告は命令を不服として正式な公判を請求、今月28日に論告求刑公判が予定されている。【月足寛樹】
毎日新聞 2006年9月14日