重篤なけが・急病人の受け入れ先となる各地の救命救急センター(3次救急機関)への搬送時間が、都道府県によって最大で6倍も差があることが、国際医療福祉大(栃木県大田原市)の河口洋行助教授らの調査で分かった。重病者の救命救急には少しでも速い搬送が不可欠とされるが、長崎、鹿児島、青森、秋田の4県では、60分以内にセンターに運べる住民数が県民の半数以下にとどまるとの結果になった。専門家は地域間格差の解消に、国全体で取り組むことの必要性を指摘している。
救命救急センターは原則、人口100万人に1カ所の基準で配置され、人口が集中する都市圏とそれ以外の地域で搬送時間に格差があると指摘されてきた。しかし、センターへの搬送時間は一部の県でしか集約されておらず実態は不明だった。
河口助教授のグループは、道路地図や車両の平均的な移動時間などのデータが入力された「GIS」(地理情報システム)というソフトを使用。全国の約2500の市町村(離島を除く)の中心部から、最寄りの救命救急センターまで車で移動した場合の所要時間を計算した。
搬送時間の全国平均は約59分で、地域差が極めて大きいことが判明した。最も搬送時間が短いのは、センターが21カ所ある東京都で平均搬送時間は約17分、10カ所の大阪府は約24分だった。これに対し、広大な面積にセンターが10カ所しかない北海道は、東京の6倍近い約100分かかる計算になった。
また30分以内にセンターに搬送できる自治体の住民数を調べたところ、東京では96%とほぼ全住民をカバーした。しかし、長崎や秋田、岩手など14道県では30%を下回った。
医療経済学を専門とする河口助教授は「これまで全国規模のデータがなく、各県が自県の『実情』を測りかねていた面があると思う。搬送時間に大きな格差があるのは問題で、こうしたシミュレーション結果を活用し、より効果的な救急体制を検討すべきだ」と話している。【金田健】
毎日新聞 2006年9月12日