覚せい剤使用の再犯を防ぐため、警察庁は来年度から覚せい剤取締法違反で有罪判決を受けたり、服役した人を対象に、臨床心理士のカウンセリングや、任意での週1回の尿検査を柱とした事業を始める。まず関東地方の二つの県警本部でモデル事業をスタートさせ、効果を検証したうえで全国規模の実施を目指す。同庁は覚せい剤対策として取り締まりや危険性を訴える広報活動に重点を置いてきたが、再犯対策には使用経験者が立ち直るための具体的な支援が不可欠と判断した。
同庁によると、昨年の覚せい剤事件の検挙者数は1万3346人で、04年より1126人増えた。再犯者は7351人で再犯率は55.1%。再犯率は01年以降50%を超える高止まりを続けている。
覚せい剤事件で初犯の場合は執行猶予付き有罪判決を受けることが多いが、猶予期間中に再び使用したり、実刑判決を受けて服役した場合も出所後に、使用時の快感が忘れられずに再び使用するケースが多いとみられる。現状では、立ち直り支援は民間団体や医療機関に委ねられている。
モデル事業は民間団体とも連携して支援のノウハウを共有。覚せい剤使用事件で有罪判決を受けた人や刑務所から出所した人に週1回の尿検査を受けてもらうことで、再び覚せい剤に手を出さない歯止めとし、さらに臨床心理士がカウンセリングを通して覚せい剤との決別を後押しする。
同庁は「警察は覚せい剤使用者に取り締まり時にかかわるだけで、その後の動向は把握できなかった。再犯防止に絞り込んだ対策がぜひとも必要と考えた」と話している。【遠山和彦】
▽薬物依存症の治療にあたる「アパリ・クリニック上野」(東京都台東区)の神山五郎院長の話 本人は十分反省していてもフォローが不十分で壁を乗り越えられずに再び覚せい剤に手を出してしまうことも多い。社会全体でフォローする仕組みが必要で、警察庁の取り組みに期待したい。
毎日新聞 2006年10月22日