法的なトラブルの相談窓口となり、司法の使い勝手をよくするために市民を支援する日本司法支援センターが、業務をスタートさせた。全国からの相談に応じ、トラブルの内容ごとに最もふさわしい弁護士会や消費者センターなどの機関を紹介する東京・中野のコールセンターには、電話が殺到しているといい、滑り出しは順調のようだ。
同センターは司法制度改革の目玉事業の一つとして開設され、法で社会を明るく照らし、日当たりの良いテラスのようにくつろげる場にしたいと「法テラス」の愛称が付けられた。少額訴訟制度などトラブル解決に役立つ法制度の説明や法律家団体などの紹介といった業務のほか、資力の乏しい人のための民事裁判扶助、犯罪被害者支援などの事業も行う。全国約70カ所の事務所では、スタッフ弁護士が適切な料金で法律サービスを提供するシステムで、弁護士や司法書士などがいない司法過疎地もフォローする。また、裁判所が選任する国選弁護人の候補者の指名などの業務も担当する。
法テラスによって、市民の司法へのアクセスが容易になり、裁判所も身近な存在になるものと思われる。しかし、法務省所管の独立行政法人で法務・検察当局から人材が派遣されているため、中立性への疑問や不安を指摘する声も小さくない。とくに従来は弁護士会が握っていた国選弁護人の実質的な選任権が法テラスに移ったことに対して、弁護士自治を重視する弁護士らから法廷で対決する相手側に委ねるのはおかしい、といった声が出ている。スタッフ弁護士は300人規模を予定しているのに、20人余でスタートせざるを得なかったのも、弁護士らの批判や不信感の影響とみられる。
弁護士自治は、弁護士のためだけの問題ではない。容疑者、被告の冤罪(えんざい)からの救済をはじめ、市民の人権や公正な裁判を守るためにも確固たるものでなければならない。その重大性にかんがみ、法テラスは国選弁護人選任の事務を遂行する際に可能な限り公平性、透明性の確保に努めるべきは当然だ。民事法律扶助事業などについても同様で、外部監査や不服申し立てなどの仕組みも整備して市民本位の業務に徹する必要がある。
日本弁護士連合会などはこれまでも公設事務所を開設するなど法的サービスの普及に努めてきたが、法テラスが誕生したからと言って慢心することなく、今後も独自の立場から市民のための事業を発展、継続させてほしい。刑事弁護については多くの被告らが私選弁護人を依頼したくても費用がかさむためにできず、仕方なく国選弁護人に頼っているのが実情だ。一部の弁護士会が実施してきた定額報酬による私選弁護制度などを拡充し、弁護士事務所の敷居を低くする工夫も凝らすべきだ。
法テラスに期待するものは大きいが、万能と考えてはならない。市民が見守りながら、弁護士会などの活動とも有機的に連携させて、司法の役割を強化、充実させるため活用したいものだ。
毎日新聞 2006年10月23日