安倍晋三首相誕生後、初の国政選挙となった衆院統一補選は、神奈川16区、大阪9区とも自民党候補が当選した。
北朝鮮の核実験を受けての選挙戦となり、格差是正などの内政問題は争点にならなかった。このため、有権者の関心は低く、両補選とも投票率は総選挙時を大幅に下回った。初陣を飾れた安倍首相だが、再チャレンジなどの政策が必ずしも支持されたとはいえない。
自民党は核実験に踏み切った北朝鮮への対策に主眼を置いた。今回のように状況などが厳しくなる中の選挙では、与党に有利に働くといわれてきた。しかも、安倍首相は就任後早々に訪中、訪韓。暗礁に乗り上げた近隣外交の打開に動いた。
さらに、安倍首相が自らの「歴史認識」を封印し、現実路線に徹したことで、対立点は明確にならなかった。野党が攻勢に出にくい状況になった。国民に強まっている北朝鮮への危機感に、近隣外交の成果も加わり、「安倍自民党」には一層の追い風が吹いた。
しかし、自民党が抱える問題が今回の勝利で解消できたわけではない。いずれの当選者も、実父は衆院議員だ。安倍首相をはじめ党内実力者の多くは2、3世議員。公募制を導入するなど人材供給源の多様化に努めているとはいえ、今回は逆行した結果となった。
安倍首相が総裁選で大勝したのは、人気の高さを期待されたからだ。コアとなるべき基礎票が流動化し、「党首力」に頼らざるを得ない状況に追い込まれているということだろう。今回は補選ということで、公明党と支持母体の創価学会から全面協力を得られた。自公連立がより緊密になったが、自民党には基礎票不足の解消が急務であることは変わらない。
一方、野党、中でも民主党は小沢一郎代表、菅直人代表代行、鳩山由紀夫幹事長のトライアングルの下、徹底した「どぶ板選挙」を展開。所属国会議員も大量に投入し、今春勝利した衆院千葉7区補選の再現を目指した。だが、結果が連敗に終わった。
民主党は「小泉改革」の継承者である安倍首相を格差問題で追い詰めようとした。参院選での勝敗の分岐点は29に増えた1人区の勝利にあると見込んだ上の作戦だった。格差は1人区でより深刻になっているからだ。しかし、財政負担を含めた解消策は十分に説明されず、支持は広がらなかった。来夏の参院選への戦術は、政策を含めて練り直しが迫られている。
無党派層の増大で、「風」と呼ばれるその時々の民意の動向で、最近の選挙結果は大きく左右される。今回は北朝鮮の核実験も手伝い、自民党に「風」が吹いた。だが、安直に「風」を呼び込もうとすると、ポピュリズムに陥りやすい。テレビ政治の広がりに反比例するように、考える政治は影を潜めている。
小選挙区制の定着で、「党首力」は選挙結果に直結するようになった。だからといって、政策抜きで党首の違いしか提示できないとしたら、政党の怠慢だ。
毎日新聞 2006年10月23日