消費者金融の勧めで、不動産担保ローンを契約した静岡市の年金生活者の男性(77)が返済に行き詰まり、指定された不動産会社に自宅を実勢価格の半値以下で買い取られていたことが分かった。金融庁は今年6月、借り手が担保を失わずに返済できるかどうかを調べたうえで融資するようガイドラインを設けたが、消費者金融が低所得者に過剰融資した末、最後には不動産業者と組んで収益を上げる構図が浮かんだ。【多重債務取材班】
男性は03年1月、親族の住宅ローン返済を助けるため、大手消費者金融から自宅を担保に200万円借りた。その後、地元消費者金融2社の勧めで2度借り換え、債務額は04年10月に2600万円、毎月の払いは利息だけで26万円まで膨らんだ。
返済に行き詰まった時、3社目の消費者金融は指定した市内の不動産会社に自宅を売り、全額返済するよう迫った。男性は昨年1月、この不動産会社に236坪の自宅を4000万円で売却した。
翌月、この土地は別の不動産業者に転売され、4区画の分譲宅地として約8700万円で売り出された。買値と売値の差は、坪当たり20万円。地元不動産業界の関係者は「不動産屋のもうけは坪5~10万が普通だ」と価格差に驚く。この不動産会社社長は「男性が急いでいたので、任意売却に協力しただけ。消費者金融からはよく買い取りを持ちかけられ、もうけの大きな物件に当たることもある。持ちつ持たれつだ」と話した。
不動産担保ローンを扱う大手消費者金融の元社員は「(一般論として)任意売却は競売より確実に債権が回収できる。それには不動産業者の協力が欠かせない」と話している。
男性は静岡茶の栽培農家で、自宅は父から相続したものだった。今は妻(76)、長女(52)、失業中の孫(22)とともに借家で暮らす。男性は「高額の返済に追われる生活を終わらせたかった。今思えば、消費者金融と不動産会社は裏で手を組んでいたのだろう」。長女は「自宅を手放す時は母と心中を考えた。せめて妥当な価格だったら」と悔やしがる。
◇解説…「不動産担保」法規制検討を
無担保ローンを中心に営業を展開してきた消費者金融業界がここ数年、不動産担保ローンで高い収益を上げている。高額の貸し付けが可能となるうえ、借り手が支払い不能になれば担保を処分させて債権を回収できる。
その結果、生活基盤となる自宅を奪われる債務者が後を絶たない。不動産の価値を見込み、借り手の収入額を度外視した貸し付けが横行しているためだ。多重債務問題に取り組む弁護士らは「過剰融資の温床」と批判し、大手消費者金融元社員は「不動産を略奪するための道具」と言い切る。
無担保ローンについては、開会中の国会で金利引き下げの法改正が実現する流れにある。だが、不動産担保ローンの問題は一連の規制強化論議から抜け落ちている。金融庁はようやく、担保を取った貸し付けが過剰融資につながらぬよう、貸金業規制法のガイドラインに書き加えたが、罰則はなく実効性は乏しい。金利引き下げに加え、不動産担保ローンについても罰則を伴う法規制の検討を急ぐべきだ。
毎日新聞 2006年10月25日